2010年04月16日

私の愛聴盤(6)

§モーツァルト/交響曲第40番ト短調
ケルテス指揮ウィーンフィル('72年録音)

今さら何を語れようか、というほどの名曲である。
作曲家の晩年の不遇、また宿命的な「ト短調」ゆえに、後世のわれわれはこの曲に対して様々に思いを巡らせてきた。
そして「苦悩」「哀愁」「疾走する悲しみ」といったキーワードがイメージとして定着する。
ヴァルターは「愛撫するようなカンタービレ」で、またフルトヴェングラーは「重い音色と焦燥にかられたようなテンポ」をもってこの曲を表現した。

イシュトヴァン・ケルテス。
まるでモーツァルトを指揮するために生まれてきた「もう一人の天才」のように、僕には思える。
ケルテスはこの40番に「暗さ」の解釈をしない。
スコアに対するひたすら忠実なアプローチ。
「楽譜通りにやれば佳いモーツァルトになるのだ」という揺るぎない確信を持っているかのようである。
テンポは常に自然であり、ウィーンフィルの音色も明るい。
それでいて、流れ出る音楽は実に表情豊かなのである。
端正だがロマンティックでもあり、微笑みを見せつつも密やかな涙がある。

ケルテスは1973年4月16日、遊泳中に高波にのまれて非業の死を遂げた。
43歳の若さであった。
posted by 小澤和也 at 22:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 愛聴盤