2010年05月01日

私の愛聴盤(7)

§シューベルト/4つの即興曲 D.899
 ラドゥ・ルプー(pf)('82年録音)

昔、就職してまだ間もない頃、オーディオに凝っていた時期があった。
当時、何かの本で「優秀録音」として紹介されていたのがこのCDである。
その頃の僕は…シューベルトの歌曲や室内楽には親しんでいたものの、ピアノ曲には正直なところほとんど馴染みがなかったのだが…

ハ短調の第一曲で、いきなりハートを掴まれた気がした。
ルプーの絶妙のタッチが心を打つ。
弱音のなんという美しさ!
ある箇所はさりげなく通り過ぎ、かと思うと次のフレーズは表情豊かに歌い抜かれる。
しかもそのエスプレッシーヴォが湿っぽくないのだ。
  
  (ウィルヘルム・ケンプのシューベルトも好んで聴くが、
   彼の歌心はもう少し乾いている…逆にウェットなのが
   内田光子であろうか)

曲が始まって4分近く進んだ所からの、変イ長調の慰めるようなメロディ。
それが二度目に歌われる時に、応答するように現れるソプラノの短いパッセージがまた絶美である。
さりげないがゆえになおさら、淋しさや悲しさをより色濃く醸し出しているように思えるのだ。

第二曲以降も、晩年のシューベルトの中をよぎったであろう様々な心象を感じさせてくれる。
   喜びと憧れ。
   祈り。
   …そして諦念。
特に第三曲の澄み切った境地にはいつも心惹かれる。

僕の「癒し系」愛聴盤である。
posted by 小澤和也 at 21:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 愛聴盤