
ベルリオーズ「トロイアの人々」−全曲日本初演−を聴く。
(2月14日、サントリーホール)
【マリインスキー歌劇場管弦楽団&合唱団 特別演奏会
全5幕、コンサート形式、フランス語上演】
このオペラは5幕構成だが全2部に分かれており、
第1部:トロイアの奪取(陥落) …第1〜2幕
第2部:カルタゴのトロイア人たち…第3〜5幕
となっている。
(日本では第2部のみが1974年に演奏されているそうだ)
演奏会形式ということで、歌手はほぼ全員が舞台最前列に並ぶ。
指揮台は置かれていない。
ゲルギエフ登場…
その瞬間、会場の空気が明らかに変わった。
第1部は、ギリシア神話のいわゆる「トロイアの木馬」の物語が背景となる。
オペラのストーリーは、トロイアの王女であるカサンドルを軸に進んでゆく。
カサンドルを歌うM.フドレイがまず素晴らしかった。
予知能力がありながら(彼女は巫女でもあった)それを信じてもらえない苦しみ、そして次第に取り乱してゆく様子を激しく歌い切っていた。
トロイアの英雄(ただし、彼の判断が木馬を城内に引き入れるきっかけとなってしまうのだが)エネ役のS.セミシュクール、カサンドルの婚約者コレーブ役のA.マルコフも良かった。
全2幕、およそ80分が一気に演奏された。
ゲルギエフは曲毎の間をほとんど置かず、畳み掛けるように音楽を運んでいく。
時折大きく後ろに下がり、歌手とのコンタクトを密に取っているのが印象的だった。
(指揮台を用いなかった理由はこれかも知れない)
20分の休憩後、第2部へ。
場面は一転してアフリカ北部の都市、カルタゴ。
物語は、トロイアを脱出しイタリアを目指していたエネがカルタゴに漂着し、この国の女王であるディドンと恋に落ちる…というものである。
音楽的な軸となるのはやはりディドンだ。
亡夫への操を守り抜こうとし…
エネの出現により良心の呵責に悩み…
一度は結ばれたものの結局はイタリアへと出帆してしまったエネに対して、その愛情が激しい呪いへと変貌してゆく…
このドラマティックな役を見事に歌い切ったE.セメンチュクの存在感がとにかく凄かった。
他のキャストも皆素晴らしかったのだが、それが霞んでしまうほどだ。
全3幕、約120分ノンストップ。
オーケストラ(そしてバンダも!)の表現力とパワー、合唱(各パート16〜17人)の声量にも圧倒された。
ベルリオーズが考えた様々な「仕掛け」のすべてを、今回の演奏はすべて描き尽くしていたように思えてならない。
ゲルギエフの指揮はいつもの独特なスタイルながら、緻密で繊細な音をオーケストラから引きだしていた…
と同時に、歌手の呼吸とも素晴らしく調和。
言葉にすると実に陳腐であるが…
これはまさしく「歴史的名演」と言えるのではないか。
この場に立ち会えた幸運に感謝。
この「非日常的空間」から外へ出てみると…
大粒の雪。
夢の続きを見ているような、
そんな不思議な気分で帰路についた。