2011年12月03日

愛聴盤(28)〜モントゥーの「牧神」

§ドビュッシー/牧神の午後への前奏曲
 ピエール・モントゥー指揮ロンドン響
 ('61年録音)


中学生の頃、LP盤で繰り返し聴いた懐かしの演奏である。
当時、ベートーヴェンやモーツァルトから入門した僕にとって、ドビュッシーのこの音楽は不思議の世界であった。
和声とその進行の「縛り」からの解放、緩慢な拍節感、そしてハープやフルートによる夢のような響き…


  けだるい夏の午後。
  木陰で物憂げに葦笛を奏でる半人半獣の牧神。

冒頭、フルートソロの音色が明る過ぎず、正に憂いを帯びて響く。
それを受けるホルンの、何と柔らかくまろいこと…
ハープは…あるときは光の反映、またあるときは風のそよぎのよう。
モントゥーのバトンから紡ぎ出されるデリケートなニュアンスが、聴く者の心をつかむ。

  夢とうつつの交錯。
  水浴する美しい水の精の姿に惹かれ、
  彼女をとらえようとする牧神…しかしその姿は消え去ってしまう。

実に表情豊かなオーボエのひと吹き。
それを引き継ぐヴァイオリンの旋律の艶やかさといったら!
しかし、幸福の時間も長くは続かない…
後ろ髪を引かれるような気分のまま、次の場面へ。

  ヴィーナスに寄せる陶酔の境地。
  愛の女神との抱擁を空想する牧神。

主題を奏でるフルート、オーボエ、イングリッシュホルン&クラリネットの、
絶妙にブレンドされた音色が美しい。
やがてテーマは弦楽器に移され、この曲で唯一、しかも一瞬のff(フォルテシモ)を情熱的に響かせる。
むせ返るような官能の世界…

  やがてヴィーナスの幻影も消えて、
  牧神は身を横たえ、再び眠りに落ちてゆく…

ほとんど室内楽的とも言える精緻さを湛えたこの「牧神」。
オーケストラはこの老巨匠(この時モントゥー81歳!)に対し、このうえない敬意と信頼をもって応え、
モントゥーは作曲家ドビュッシーとそのスコアに対して、心からの献身の思いを見せている。

資料によれば、この録音がなされたのは1961年12月。
…今からちょうど50年前ということになる!
現在でも新鮮さを全く失っていない、魅力的な演奏だと思う。
posted by 小澤和也 at 00:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 愛聴盤