2012年08月09日

夏の夜の「物語の世界」

 
 
山枡信明 テノールリサイタルを聴く。
(8日、横浜みなとみらい小ホール)
 
今回のテーマは「物語の世界」。
曲間にピアノ独奏と語りが挿入されつつステージが進んでゆく、という形。
ユニークなアイディアで、なかなか効果的であったと思う。
 
この日の中心的曲目として、フーゴ・ヴォルフの「歌い手」を取り上げられる、と山枡さんよりあらかじめ伺っていた。
ヴォルフは僕にとってほとんど馴染みのない作曲家だったので(もちろん名前は知っていたけれど)、今回、事前に予習をして出掛けたのだった。
 
 
第一部、最初の曲の前にピアノ(小林周子さん)によって奏でられたのがこの「歌い手」の美しいメロディ。
いっぺんにハートをグッと掴まれたような気分に。
(やりますね、山枡さん!)
 
前半で特によかったのは
シューマン「古城の上で」
モーツァルト「すみれ」
マーラー「美しいラッパの鳴るところ」。
 
ゲーテの名作「すみれ」。
モーツァルトはその末尾に2行、
『かわいそうなすみれ!
    それは愛らしいすみれだった』
と自ら付け加えたのだった。
これぞまさに…物語の世界。
 
山枡さんの歌の真髄は今回も「言葉と表情、そして音色 」であった。
力任せに「声だけで聴かせてしまう」技は慎重に避けられていたように思う。
(ただ、これは僕の勝手な希望だけれど…
「二人の擲弾兵」と「魔王」は、あと少しだけ「声そのもの」を聴きたかったな)
 
 
リサイタルの第二部は、「うさぎとかめ」「あわて床屋」などの日本の歌をまじえて始まる。
幾分寛いだ雰囲気が客席にも漂う。
 
後半、僕にとっての白眉は
シューベルト「ガニュメート」「トゥーレの王」、
そしてやはりヴォルフ「歌い手」が圧巻であった。
 
〜その素晴らしい歌声ゆえに、王宮の広間に招かれた一人の歌い手の物語〜
詩の第3節、
『歌い手は固く眼を閉ざし
    あらん限りの力で楽器を掻き鳴らした』
この部分を歌う山枡さんの姿は…
あたかもこの華麗なる広間にあるかの如く堂々たるものであった。
 
〜歌い手は褒美の金の鎖を固辞し、その代わりに一杯の極上のぶどう酒を所望する〜
この場面でのピアノ間奏、紡がれた和音の響きのなんという輝き!
金の鎖のきらめきか、
あるいは、ぶどう酒の注がれた金の盃の放つまばゆい光だったろうか…
 
詩の最終節、
ぶどう酒を飲み干した歌い手が王たちに語る。
『恵まれた人々よ
    私のことを思い出して
    神に熱い感謝を捧げてください…
    私がこの飲み物に感謝いたしますように』
 
歌声への、音楽への、そして芸術への感謝の念。
これはそのまま、今宵のリサイタルのテーマであり、山枡さんが伝えたかったものなのではないかと、僕は直感した。
 
山枡さん、
素敵な歌をありがとうございました。
posted by 小澤和也 at 17:37| Comment(0) | 日記