2013年03月29日

聖金曜日のバッハ

 
東京オペラシティにて、「ヨハネ受難曲」を聴く。
 
 
今日はキリスト教の暦における《聖金曜日》=復活祭前の金曜日。
それを意識していたわけでは全くなく、かねてより一度聴いてみたいと思っていたバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)の演奏会があるということで、どちらかといえば軽い気持ちでチケットを求めたのであった。
 
 
午前中は家で予習。
新宿で打ち合わせをひとつ済ませ、オペラシティへ。
演奏会というよりも何らかの儀式に臨むかのような、そんな場内の雰囲気。
 
 
鈴木雅明さんの音楽創りは、速めのテンポの中ですべての音、すべてのフレーズに強い意味付けを施したものに感じられた。
レチタティーヴォはもちろん、コラールにさえ緊張感が漲っており、やや意外に思いつつも圧倒された。
 
BCJの独唱・合唱・オーケストラの技術は、おそらく現在考えうる最上のレベルのものではないだろうか。
個人的には、ソプラノソロと通奏低音に深く感銘を受けた。
(もちろんエヴァンゲリストも!)
 
ただ一点、これはよく分からないのだけれど…
座席が3階正面だったため、声楽/器楽のバランスが常に理想的、とはなっていなかったようにも思えた。
もっと小さな空間で、ステージに近い位置であったら、より言葉を強く感じることができたかもしれない。
 
ともあれ、第二部、イエスが十字架に付けられる辺りからの音楽は凄まじかった。
その場にいてふと思ったのは、
「いま自分はここで…単に聴いているのではなくて、何かを "体験" しているのだな」ということ。
最後のコラールの音が消えてからも、しばらく放心状態であったと思われる。
(実はよく覚えてないのだ)
 
吉田秀和さんだったか、(これは「マタイ」についての言及だったと思うが)「こういった "大きな" 音楽は一生にそう何度も聴けるものではない…」といったようなことを氏の著書に遺しておられたと思う。
これを初めて読んだ時はあまりピンとこなかったのだけれど、今日はこのことがとてもよく解るような気がする。
 
貴重なバッハ体験であった。
 
 
posted by 小澤和也 at 23:08| Comment(2) | 日記

2013年03月27日

ハイドンの挑戦

 
最近興味を持っているのが、ハイドンの交響曲。
それも晩年の「ザロモン交響曲集」ではなく、彼がエステルハージ家の楽長に就任した頃の作品、番号で言うと40〜50番前後のものである。
中では第45番の『告別』交響曲、ついで『哀悼』(第44番)が傑出して有名だが、それ以外にも美しい曲が少なくない。
 
例えば、交響曲第41番ハ長調(1769-70頃作曲)。
その調性が表すように祝祭的な性格を持ち、トランペット&ティンパニが活躍する。
第2楽章では一転して、オーボエやフルートの繊細な旋律が美しい。
そして終楽章は…
モーツァルトのK.338(交響曲第34番)の先取りのような快活なジーグ!
 
交響曲第42番ニ長調(1771年作曲)では構成感の巧みさが聴かれる。
「4楽章制交響曲の様式」をいち早く確立した、いわゆるマンハイム楽派のスタイルを鋭敏に感じ取ったような。
第2楽章アンダンティーノ・エ・カンタービレは、晩年の作品にまったく劣らない深みと高貴さを湛えている。
この楽章だけでも一聴の価値あり!
 
その他、第43、46番なども、知られないままでは本当にもったいない名曲だと再認識した。
しかも、似通ったような曲はまったく無いのである!
これらの作品に触れながら改めて思ったのは、ハイドンはこの交響曲たちを、ほとんどひとりの人(エステルハージ公爵)のために作曲したのだな、ということ。
(祝祭、あるいは何らかの行事のためという動機もあったとは思うが)
 
こういった(ある意味 "閉じた")環境の中で次々と、創意工夫に溢れた交響曲を書き続けたハイドンの意欲には真に驚くばかりだ。
そこにあったのは彼が生来持っていた勤勉さに加えて、音楽でもって我がお殿様を喜ばせようという「プロ意識」だったのだろう。
posted by 小澤和也 at 00:21| Comment(0) | 日記

2013年03月23日

演奏会のごあんない

6月に「アイーダ」を指揮します。


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§前橋・市民オペラ合唱団
§旗揚げ公演
ヴェルディ/「アイーダ」
(原語上演・字幕付)

2013年6月23日(日) 13時開演
前橋市民文化会館 小ホール
全席自由 4500円

主な出演…
アイーダ:日隈典子
ラダメス:山田精一
アムネリス:巖淵真理
アモナズロ:馬場眞二
ランフィス:照屋博史
エジプト王:中原和人

合唱:前橋・市民オペラ合唱団
ピアノ:豊田華子

演出:木澤譲
指揮:小澤和也


みなさま、
どうぞお運びくださいませ。
posted by 小澤和也 at 23:43| Comment(0) | 演奏会情報

2013年03月22日

幸多かれ…新たなる門出に

 
横浜国立大学の卒業式@横浜文化体育館 へ。
(もちろん「仕事」として)
管弦楽団の皆さんと式典演奏をご一緒した。
この佳き門出の日に、ほんのちょっぴりの色を添えるために…
 
10分ほど早く関内駅に着いたので、当初の予定通り、交差点の角のMOSでコーヒーをすする。
晴れ着に身を飾った女子学生が外を通り過ぎる。
店内にもその姿がちらほらと…いいものだ。
 
開式の1時間半前に会場に入り、さっそくリハーサル。
同じく歓迎演奏を行う吹奏楽団も一緒。
 
 
管弦楽団の演目は例年と同じ。
歓迎演奏のエルガー "威風堂々"、
混声合唱団の伴奏で学生歌 "みはるかす"、
そして閉式後の "蛍の光" 奏楽。
オーケストラはつつがなく任務を全うした。
 
いい式だった。
学位記授与に続いての学長式辞、そして来賓(今回は神奈川県副知事!)挨拶の後、会場から自然発生的にあたたかな拍手が。
ここ10年近く毎年出ているけれど、拍手は滅多に起きなかったな…
卒業生代表の方の答辞もとても素敵だった。
 
今日この日、
社会に巣立つハレの若人達に幸多からんことを!
 
 
posted by 小澤和也 at 23:16| Comment(0) | 日記

2013年03月19日

美味しくいただきました

 
 
De Koninck、
美味しくいただいた。
 
お店でよく飲むChimayやWestmalleほど強い癖もなく、スーッと飲める感じ。
むしろ…いくらでも飲めてしまって(あとが)大変かも。
 
日本でいうところの「某社スーパードライ」といったところかな。
 
 
posted by 小澤和也 at 23:56| Comment(0) | 日記

2013年03月15日

ベルギー大使館へ

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「ルーベンス 栄光のアントワープ工房と原点のイタリア」展 記念講演会を聴く。
(15日@ベルギー王国大使館)

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入口脇に掲げられたエンブレム。
当然ながら仏語/蘭語の2カ国語表記。

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入口を進んですぐのロビー空間の突き当たりが講演会の会場に。
…とにかく美しい、そして広い!
(ここでブノワのモテットを歌ったら綺麗だろうなぁ)

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この展覧会のチーフキュレーター、宮澤政男さんによる "見どころ" 解説、素晴らしかった。

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後半は、政府観光局の須藤さん&フランダースセンター(大阪)館長のB.カトリッセさんによるアントウェルペン観光案内。

実は…
今日ここへ来た目的の半分は、カトリッセさんと久しぶりにお会いすることだった。
(2008年以来!)

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講演終了後、彼のもとに歩み寄ると…
覚えていてくださったようだった!
(うれしい!)
5年前のブノワ/ミサ・ソレムニス日本初演のパンフレットをお見せすると、懐かしそうに手に取っていらした。
『ブノワはベルギーでもなかなか演奏されなくてね…』とカトリッセさん。
近い将来、日本国内でのブノワ演奏を約束し、握手。


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来場記念のお土産、ベルギービールをいただく。
明日、飲もう。
posted by 小澤和也 at 23:59| Comment(0) | 日記

2013年03月13日

ヴィルタス・クヮルテットを聴く

 
 
第5回「小金井音楽談話室」にてヴィルタス・クヮルテットを聴く。
(7日@小金井市民交流センター 小ホール)
 
この「談話室」は、いわき芸術文化交流館アリオスの音楽プロデューサー、足立優司さんが企画・ナビゲーターを務められ、彼の素敵なトークとともに身近に音楽を楽しもうというもの。
どのくらい身近かというと…
この至近距離!
 
(開演前に客席から撮ったもの)
 
ヴィルタスQを聴くのは昨年3月に続き2度目。
今回はハイドンの作品20-3、ベートーヴェン「大フーガ」、そしてシューベルト「死と乙女」という、僕にとって涙が出るほど魅力的なプログラムだった。
最初のハイドンでは "Sturm und Drang" の精神とト短調の響きが持つ宿命的な響きのイメージが、またベートーヴェンではその晩年の透徹した心境とロマン的な和声&リズム感との絶妙な同居が、それぞれ余すところなく表現されていたと思う。
 
そしてメインのシューベルト。
彼らの演奏には、今まで僕がこの作品に対して抱いていなかった「巨大さ」を感じさせるものであった。
中庸〜やや遅めのテンポ、リピートはすべて実行され、さらに要所要所にしっかりと楔を打ち込んでゆくような。
そして(足立さんもプログラムノートで触れておられるように)最晩年の「大ハ長調交響曲」への繋がりを強く意識させられる、そんな演奏であった。
 
優しく語りかけるような足立さんのお話、リーズナブルなチケット価格、それでいて選曲や演奏内容には妙な迎合や妥協は一切なし…
ほんとうに素晴らしい企画だと思う。
 
 
この日はもう一つ嬉しい出来事が。
音大受験の際にお世話になった、作曲家の梅本由紀さんとホールで久々の再会…17年ぶり
あのとき、先生にピアノとソルフェージュを半年間、徹底的に叩き込んでいただいたお蔭で僕は奇跡的に合格できたのだと、今でも思っている。
posted by 小澤和也 at 11:43| Comment(0) | 日記

2013年03月11日

あの日から二年

 
東日本大震災から二年。
未だあの日の記憶は生々しい。
 
復興、絆、支え合い、頑張ろう…
これらの言葉は美しく、しかしどこかよそよそしく私の胸に響く。
こうして言葉に置き換えて済ませるのは容易く、そして虚しい。
 
私達は決して忘れてはならない。
思いを寄せること。
手を差し伸べること。
さらに大切なのはそれらを「継続させる意識と力」である。
 
 
亡くなられた方々、そしてご遺族の皆様に改めて哀悼の意を表します。
そしてこれからも自分の仕事を、自分がなすべきことを、真摯な気持ちをもって続けてゆくことをここに誓います。
posted by 小澤和也 at 19:52| Comment(0) | 日記

2013年03月06日

修了試演会

 
 
二期会オペラ研修所/マスタークラス修了試演会を聴く。
(17時〜の部、@HAKUJUホール)
 
16組のアンサンブルによるハイライト公演。
うち5曲は重複していたので、11作品を次々と味わったことになる。
いわゆるイタリアものが4つ、ドイツもの4つ、そしてフランスもの3つとバラエティに富んでおり、大いに楽しめた。
 
席が前から2列目、どの歌手の声も充分過ぎるほどに届いていた。
(これが客席後方となると多少変わってくるのだろうな…)などと想像しながら聴いていた。
 
顔、あるいは身体全体から発せられる表情、言葉の捌きや細かいテクニックなども重要だけれど、やはり最後は「声そのものがどれだけ飛ぶか」が決め手になるのではないかしら?
(とはいえ、興味の全てが発声に偏って、音程感覚が掴めていない一部の歌唱はどうにも辛かった)
 
以下は本筋から離れた感想になるが…
まず、賛助出演のソプラノ和泉万里子さん(マリー/ヴォツェック&元帥夫人/ばらの騎士)が素晴らしかった。
これはもう、経験に基づく余裕の度合いに由来するのだろう…
それゆえ、研修生の皆さんとの単純比較は意味がないが、抜群の存在感と安定感であったと思う。
 
それから…
幾つかの作品で影コーラスがあったのだが、それがあまり良くなかった。
実は…
前方に座ったために、舞台袖で振られているペンライトがよく見えたのであるが、その光の軌跡がマエストロのビートと全く同時で、その結果影コーラスが全部遅れて聴こえたのだ。
試演会全体で見れば重大なことではないのかもしれないけれど、どうせ入れるのならば…と思った次第。
 
出演者の皆さん、お疲れさまでした。
 
posted by 小澤和也 at 23:59| Comment(0) | 日記

2013年03月04日

あの日の記憶

 
 
朝日新聞の「東日本大震災」報道写真展を観る。
(@有楽町朝日ギャラリー)
 
写真はおよそ60点。
みるみる街を飲み込んでゆく津波。
ご家族を亡くされた方々、それぞれの追悼と祈りの風景。
そして…
復興に向けて立ち上がる人々の姿。
二年近く経った今でも、僕の心が受ける衝撃は少しも変わらなかった。
 
福島の原子力発電所関連の写真ももちろんあったが、いささか表面的な扱いではなかったろうか。
新聞記事をそのままパネルにしたものや、雑誌などの資料でもって補われているようではあったが…
(あくまで私見である)
 
出口近くまで来たところで少し息苦しさを覚え、しばらく腰掛けて休む。
あの時、TVの前で味わった「無力感」が頭の中で蘇る。
心を鎮めてから、会場を後にした。
 
言葉にならない想いが、胸の内で複雑に絡み合う。
ただ言えることは…
我々はあの日起きたこと、あの時脳裏に去来したものを決して忘れてはいけない。
そして、
あの惨劇からもっともっと多くを学ばなくてはならないのではないだろうか。
 
 
3月13日まで、11〜19時。
posted by 小澤和也 at 21:26| Comment(0) | 日記

2013年03月03日

演奏会のごあんない

 
これから出演するコンサートのご案内です。
 
 
§ 前橋・市民オペラ合唱団 第1回記念公演「アイーダ」
 
日時…2013年6月23日(日)
会場…前橋市民文化会館
曲目…ヴェルディ/「アイーダ」
出演…日隈典子(ソプラノ)、山田精一(テノール)、小澤和也(指揮)他
 
 
§東京農工大学グリークラブ 第33回演奏会
 日時…2013年8月8日(木) 夜開演(全席自由、入場無料)
 会場…成城ホール(小田急線成城学園前駅下車)
 曲目…男声合唱組曲「光る刻」(木下牧子)、同「アイヌのウポポ」(清水脩) 他
 出演…小澤和也(指揮)、宮代佐和子(ピアノ)他
 
 
 § 港北区民交響楽団 第14回夏休み親子コンサート
 
日時…2013年8月18日(日)午後開演(二回公演)
会場…港北公会堂
出演…小澤和也(指揮)、秋山雅子(司会)
曲目…未定
 
 
詳細につきましては決定し次第、追ってお知らせいたします。
皆さま、どうぞお運びください。
 
 
posted by 小澤和也 at 15:10| Comment(0) | 演奏会情報

2013年03月02日

ラシーヌの雅歌

 
 
今日ずっと、頭の中で鳴り響いていた音楽…フォーレの「ラシーヌの雅歌」。
 
詩人ジャン・ラシーヌの美しく敬虔な詩と、作曲家ガブリエル・フォーレの柔和で清澄な音楽との幸福な出会い。
 
一切の混じり気のない、限りなく透明な声でこの歌を響かせることができたら…
 
 
言葉よ
いと高きもの[=神]と同じく
我らのただ一つの望みである言葉よ、
地上と天のとこしえの日、
安らかな夜に、
我らがその静寂を破るとき、
救い主よ
我らにあなたの眼差しを投げかけたまえ!
 
我らにあなたの恩寵の炎を注ぎ給え、
あなたのみ声の響きに、
すべての邪悪なものが逃げ去るよう、
あなたの教えを忘れさせんと導く、
悩める魂のまどろみを消し去り給え!
 
おお  キリストよ
この誠実な民に慈悲を与え給え
あなたを讃えるため
今ここに集った民に、
あなたの不滅の栄光に捧げるこの歌を受け給え、
あなたからの贈り物[=天性]でいっぱいに満たされ
あなたへ再び返されるこの歌を!
 
(拙訳)
posted by 小澤和也 at 00:36| Comment(0) | 日記