![]() 【第3部・前半】 スコアの冒頭には速度記号・表情記号の代わりに "Een schoone frissche zomermorgen" (美しく爽やかなある夏の朝) と記されている。 ここで僕らは改めて気付く… 詩的で牧歌的な第1部は夕刻を、暗澹たる戦いの歴史を描いたドラマティックな第2部は夜の情景を示唆していたのだと。 ![]() 第1部冒頭の和声進行 (スヘルデ和音) 第1部と同様に美しい「スヘルデ和音」で始まる第3部では、まず詩人が再び登場し哲学的ともいえるバラードを歌う。 「実在する魂を理解する者、 物質世界の意味を知る者、 それは物質から理想へと向かう、 その理想は精神と感覚とを高揚させ洗練させるのだ。 それはやってくる、薔薇色の陽の光が スヘルデの川面に黄金の輝きを発するとき、 悦楽の白い波が 緑の岸辺で舞い踊るとき、 愛しい人に呼びかける妖精のように、 歌いながら真珠の涙をじっと見つめる葦の穂のように。 それはやってくる!…そして素早く姿を見せる、 善き人の姿がスヘルデの川面から、微笑みながら。」 [それ=善き人の姿、すなわち人間としてあるべき姿、であろうか。詩人はスヘルデの流れの中にその反映を見たのだ] 二人の恋人たちは心の動揺から少しずつ立ち直ってゆく。 「アイリスの光に囲まれた 青白いユリの花のように 僕の愛しい人は陽の輝きの中で悲しんでいる」 「なぜ亡霊が夜毎 スヘルデの上をさまようのでしょう? ああ、私は身震いします!」 「泣くのはおよし、遠くに目をやろう、 川の上に帆船が浮かんでいる、 白鳥のように。 船乗りたちの歌が僕たちを 心から迎えてくれる!」etc. そこへ、スヘルデやその周辺で生業を営む職業集団の姿が次々と登場する。 出航する水夫たち 「マストを立てよ、 出帆の準備だ! 万歳! 風はささやき告げる、 波立つ泡を通して、 私は歌いながらお前を連れていく…と。 万歳!」 二人 「ああ、暗闇の後から…」 「光と輝きがやってくる!」etc. 漁師たち 「星々の震えるような輝きのもとで 我らは網を投げる、 やさしく、静かに、やさしく! 魚たちよ、恋に落ちた愚か者のように 我が身を網の中へ投げかけよ、 やさしく、静かに、やさしく!」 すると二人は、なぜか突然に愛を語り合うのだ。 「神よ、恋とはなんと盲目なのでしょう…」 「神聖な愛が子孫をもたらすのです」 「愛が始まりました、 無上の喜びをもって、 それは涙のうちに終わることはありません…」 「愛しい人よ、僕の胸に、 もう一度、僕に口づけを!」etc. なんとも唐突である。 貿易商たち 「花々の間を飛び交う蜜蜂のように、 船たちは波間をすべるように進む、 遠い異国の地へと! 船たちは多くの品々をもたらす、 遠い異国の地より! 船たちは絆を結ぶ、 人類愛と平和の、 遠い異国の地において! すべての労働にとって、 船たちは繁栄をもたらす、 遠い異国の地より!」 二人 「スヘルデの川岸の小さな家、 腕の中には小さな赤ちゃん、 それは私の望み!」 「魂の救い主よ、僕の生命よ!」 「愛しい人よ、僕の/私の胸に…」etc. やはり唐突である。 漁師たち 「ヘイ!我らの積荷はなんて大きいんだ!」 と、いささか取り留めなく物語は進んで行く。 次いで詩人に代わって芸術家が登場するのだが…後半は改めて。 (つづく) |
2015年04月28日
ブノワ (34):オラトリオ『スヘルデ』[4]
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| 音楽雑記帳
2015年04月25日
まつきり三郎&SBB@南与野
![]() まつきり三郎とスイングバイ・ブラザーズ 20回記念ライブへ。 (24日、café jazzmal) ![]() ![]() 彼らを聴くのはこの日で3回目。 昨年のベルギービールウィークエンドで初めて耳にし、いっぺんでファンになってしまったのだ。 ![]() ![]() PA無しのアコースティックな響きが、かえって音楽そのものをストレートに伝えていて力強い。 ドラムを用いないというのもこのユニットの大きな個性。 ベース&ギターの存在感がいっそう際立つ。 ![]() ![]() 3本の管楽器のソロ、ユニゾン、そしてハーモニーがピタリと決まる。 アレンジの妙。 ![]() ![]() 親密な空間で、ハートランドを飲みながら味わう「幸せな音楽」。 まつきさん、みなさん、 佳い時間をありがとうございました。 ![]() |
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| 日記
2015年04月22日
ブノワ (33):オラトリオ『スヘルデ』[3]
![]() (オラニエ公ウィレムの霊魂の主題) 【第2部・後半】 前回と同様、オラトリオのテキストを紹介する前に、当時のフランデレン史についてざっと触れておこう。 15世紀末、フランデレンの地はスペイン・ハプスブルク家の領地となった。 この時期、フランデレンの呼び名は姿を消し、現在のオランダと合わせて「ネーデルラント」と称された。 その後、ドイツで興った宗教改革の流れを受け、16世紀後半よりスペインによるネーデルラント地域への圧政が目に余るようになる。 そこで立ち上がったのが、オラニエ公ウィレムを中心とした貴族たちであった。 彼らはスペイン陣営側から「乞食たち」と呼ばれ、また自らもそのように名乗っていたという。 オラニエ公は反スペイン勢力の中心的存在となり、のちのネーデルラント独立の礎となった。 第2部後半は、戦火に怯える少女と青年の会話から始まる。 「川面があんなにもかき乱れて! ああ、私は怯えています!」 「臆病にならないで… 愛があなたを導くように ただ祝福のみがあなたを待っています!」 「ああ、そこに死が、薪束、断頭台、絞首台とともに渦巻いている!」 「あれは流れに映る朝霧、 風に揺れるアシがざわざわと立てる音。」 「聞いて、なんという雷鳴!」 「ああっ!」etc. ここでオラニエ公ウィレムの霊魂が現れる。 「民は苦しんでいる、 妄信の束縛が彼らを抑圧する! 来たまえ、ともに闘おう! 耳を貸さぬものはいるか?」 これに男声の二重合唱が力強く応える。 森の乞食党 「我らはゆく、馬でゆく 平原を駆け抜けて勇敢に!」 海の乞食党 「ああ!哀れな民の流した涙が血のようだ。 しかし、ネーデルラントは連帯する!」 乞食党 「我らは街を、そして港を解放する! スペインの激しい暴政から! 前進せよ!我らは勝利する!」etc. そして結びは壮大な男声合唱による賛歌となる。 「ヴィルヘルムス・ファン・ナッソウエ(=オラニエ公を指す)よ、 我らはネーデルラントの血統、 我らは祖国に忠誠を誓う、 神が永遠に護りたもう祖国に、 自由のための、真理の救済のための 聖域のごとき祖国に。 そして我らは喜びに満ちた歓声を上げる、 幸いなるかな、ネーデルラント!」 現代の我々から見れば多分に国粋主義的な内容とも取れるが、当時の、常に外圧と闘ってきたフランデレンの人々にとってはこれが偽らざる心境であったのだろうと思えてならないのだ。 そして〜繰り返しになるが〜ここでブノワの書いた音楽はほんとうに素晴らしい。 (つづく) |
posted by 小澤和也 at 12:16| Comment(0)
| 音楽雑記帳
2015年04月18日
世界遺産を見る
![]() 高崎から上信電鉄で約40分、上州富岡へ。 向かうは世界遺産・富岡製糸場。 ![]() 正面入口を進むとまず見えるのが木骨煉瓦造の東繭倉庫である。 その1階内部にある展示スペースで行われていた「座繰り製糸」の実演。 ![]() 手前の鍋で繭を煮ながら巧みに糸を巻き取ってゆく。 ![]() 富岡市のイメージキャラクター「お富ちゃん」。 「永遠の14歳」なのだそうだ。 ![]() 操糸場内部。 三角形に組んだ骨組みを基本とした「トラス構造」を小屋組に用いている。 これにより、柱の本数を減らし広い空間を確保できたのだそう。 建物の長さ約140m、当時世界最大規模の製糸工場であったとのことである。 ![]() 設立にあたり工場建設の指導者として招かれたのがフランス人ポール・ブリュナ。 その住居として建てられたのがこのブリュナ館。 思いのほかこじんまりとしたこれらの施設。 ぱっと目を引くような派手なものではなかったが、明治維新からの日本の近代化の歩みを象徴するこれら一連の建造物はとても貴重なものであるのだろう。 静かな感動を覚えつつ、すがすがしい気分で帰路につく。 天候にも恵まれ、実に佳い時間であった。 ![]() |
posted by 小澤和也 at 23:58| Comment(0)
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2015年04月16日
ケルテスの命日に
今日4月16日は、ハンガリーの指揮者イシュトヴァン・ケルテスの命日。
(1973年没)
そこで、久しぶりに彼の指揮するマーラー『復活』のディスクを聴く。
クリーヴランド管との'68年ライヴ録音だ。
(これも非正規盤と思われるが、遺された録音の少ないケルテスに免じておゆるし願えればと思う。)
第1楽章ではスコアにある起伏の激しさを忠実に再現しながらも、いわゆる「葬送行進曲」風の雰囲気を醸し出さない。
バーンスタインやテンシュテットのようにアウフタクトを粘らないからだろう。
なお当盤では、楽章最後の2小節(=最弱音の2つのハ音)が欠落しており、不自然な編集の痕跡とともに唐突に第2楽章が始まる…これは大いに残念だ。
その第2楽章は実に端正なレントラー。
テンポはここでもやや速めに取られ、ケルテスはことさら回顧録風な表現には走らない。
続く第3楽章スケルツォも、原型の歌曲「魚に説教する聖アントニウス」に見られるようなアイロニー、パロディ的表現はほとんど無く、純音楽としての "無窮動" として捉えられているように感じる。
第4楽章『原初の光』。
独唱はビルギット・フィニラ。
ひそやかで深く素朴な歌、それを決して飛び越えることのない管弦楽。
そして長大な第5楽章へ。
部分最適を取ろうとし過ぎると却って散漫な印象となる長大な前半部分を、ケルテスはやや速めのテンポとだれない間合いでがっちりと結び付けている。
「復活のコラール」では深い祈りを聴かせてくれるケルテス、それでも終盤のクライマックスに向けては前進する力を少しも失わない…もしかしたら即興的なテンポ変化もあっただろうか(合唱が置いていかれそうになる瞬間が時折ある)。
終わってみれば颯爽としたいつものケルテス節であった。
ライヴ特有の疵は多いが、オケと指揮者の親和性はこの演奏から強く感じることができる。
もしもセルの後任が(マゼールでなく)ケルテスであったら、世の音楽情勢はどのようになっていただろう…一ファンとして想像は尽きない。
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2015年04月14日
歌舞伎見物
![]() 銀座で歌舞伎を観る。 学生の頃に一二度出掛けた気がするのだが、ほとんど憶えていない。 新しい歌舞伎座はもちろん初めてだ。 四月大歌舞伎は「四代目 中村鴈治郎襲名披露公演」である。 家紋の入った祝い幕。 ![]() 演目は 一、碁盤太平記 山科閑居の場 二、六歌仙容彩(すがたのいろどり) 三、廓文章 吉田屋 「碁盤太平記」は、身内にすら本心を隠し通しながら仇討ちの機を窺う大石内蔵助の秘めた苦悩を描く。 中村扇雀さんの内蔵助が圧巻。 「六歌仙〜」では、小野小町を中心に古今和歌集の世界を彩る歌人たちの恋のやり取りがコミカルに描かれる。 装束や持ち物が次々と変わりつつ舞い進む変化舞踊が楽しい。 ![]() 「吉田屋」は上方和事の代表作なのだそうだ。 和事とは、男女の恋愛・情事の演出様式のこと。 鴈治郎さんの藤屋伊左衛門、彼をあたたかく見守る吉田屋の主人・喜左衛門を演じた松本幸四郎さん、大御所・坂田藤十郎さんの太夫・夕霧、皆さんお見事。 劇中、伊左衛門と喜左衛門の会話の場面、幸四郎さんの巧みな運びでいつの間にか鴈治郎さんの襲名口上が始まったのも粋な演出。 ![]() …と、役者さんの素晴らしさはもちろんなのだが、僕がすっかり魅了されたのが音楽(囃子)である。 各場面ごとに囃子方・唄方があれほど重層的に活躍するとは思ってもいなかった。 それはあたかも、西洋音楽でいうところの「複合唱編成」だ。 また、役者さんの台詞と唄方との絶妙な掛け合いは受難曲における福音史家の詠唱を聴いているかのよう。 歴史や進化の過程は違えど、オペラやオラトリオと同じ「仕組み」なのだなと改めて感じた。 歌舞伎、面白い! |
posted by 小澤和也 at 23:57| Comment(0)
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2015年04月13日
雑感 ベートーヴェン第2
湘南アマデウス合奏団とのプローべへ。
この日のメインはベートーヴェンの第2交響曲。
9曲ある彼の交響曲のなかで最も地味な存在とも言われるが、僕の大好きな作品である。
この曲を初めて聴いたのは中学生の頃だ。
FMの生中継で放送されたベーム&ウィーンフィルの来日公演…プログラムは第2と第7だった。
この2曲、僕はいっぺんで好きになった記憶があある。
第2といえば、吉田秀和さんがその著書「LP300選」の中でこの曲について触れているのを思い出す。
(現在は「名曲300選」というタイトルに変わっている)
『ベートーヴェンの、覇気満々たる若さと、それをしっかり統御している技術的完璧さとの両面を遺憾なく発揮している名曲だと思う。』
吉田さんはこのように記している。
氏のセレクトした古今東西の名曲300(+α)曲の中にこの第2が入っているというところに、並々ならぬ愛着を感じるものだ。
…そしてこの日。
第4楽章を指揮しながら、僕は同じ頃に作曲されたベートーヴェンの一連のピアノソナタ(第13〜18番)を頭に浮かべていた。
第2交響曲の全体にわたって用いられている強烈なアクセントや大胆なシンコペーション、これでもかと言わんばかりのsf(スフォルツァンド)やsubito p(音量を突然弱める)etc.
これらの頻繁な出現は実験精神に溢れており、さらには鍵盤楽器的な発想をも感じる。
彼はその修行時代に様々な作曲家に師事したが、交響曲・弦楽四重奏の父、ハイドンもその一人である。
そして30歳になったベートーヴェンは、満を持して6曲の弦楽四重奏曲セットや第1交響曲を書き上げ、ハイドンと肩を並べる。
そんなベートーヴェンがいよいよ師を「越えて」ゆこうとする強い意識の結実がこの第2交響曲(並びに上述のピアノソナタ)なのだと強く思うのだ。
この時期の彼の作品を「過渡的」あるいは「"エロイカ的飛躍"の前段階」といった括りで捉える見方もあるが、僕に言わせればそれは実に狭いし、何よりもったいない。
posted by 小澤和也 at 00:37| Comment(0)
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2015年04月09日
うれしいお言葉
![]() 先日の立川市民オペラ『愛の妙薬』にはたくさんのお客さまにご来場いただきました。 改めまして心より御礼申し上げます。 そのなかで、14日の公演をご覧くださったTさん(高校の先輩)からご感想を頂戴しました。 (Tさんは前回公演『アイーダ』にもお運びくださっています) 〜立川市民オペラの公演に行ってきました。 今回はオーケストラでなく、ピアノと木管楽器による演奏。こうした演奏形態は初めてなので、どんな感じなのか興味津々でした。聴いてみると、歌自体をたっぷり楽しめて、違った面でオペラを楽しめるという感想を持ちました。 ヒロイン・アディーナを歌った木下周子さん、その貫禄たっぷりの自信に満ちた歌は「お嬢様」アディーナ役にぴったり。技巧的な部分も正確にこなし、安定した素晴らしい歌唱だと思いました。 そのお相手・ネモリーノ役の大澤一彰さんは、第一声を聴いたとたんそのリリコの美声にびっくり。最初はちょっと安定感が...と思ったのですが、それは最初の部分だけ。「ロマンス」などではその美声に酔いしれました。 合唱団は今回も実力発揮。オペラの合唱はコンサートのそれとは異なった楽しみがあると思うのですが、会場に力強く響き渡る合唱がドイツのとあるオペラハウスで聴いた合唱の響きを思い起こさせてくれて、とても嬉しくなりました。 ただ、ちょっと違和感を感じたのはレチタティーヴォ。なぜだろうと一生懸命考えました。歌がおかしいのではないよね、やっぱり。チンカラコロンというチェンバロの響きがほしいのかな?レチタティーヴォの伴奏は独特のものがあって、それが不足しているのかな? いろいろ考えたのですが、もしかしたら、ベースがピアノでかつレチタティーヴォの伴奏もピアノというのは変化がないように感じたのかもしれません。 いずれにしても、とても楽しい公演でした。次の機会も楽しみにしております。〜 合唱団にもお褒めの言葉をいただき光栄です。 Tさん、どうもありがとうございました! |
posted by 小澤和也 at 10:11| Comment(0)
| 日記
2015年04月05日
Proost︎!!
久しぶりのベルギービール。 ![]() トンヘルロ。 (グラスはレフだけれど) はじめて試したが…スッキリとした美味。 ![]() オルヴァル。 ベルギー最古の修道院ビール。 ![]() パウエル・クヴァック。 馬上でも安定してビールを飲めるようにと考案された木枠とグラス。 Proost︎︎!! 乾杯︎ |
posted by 小澤和也 at 00:11| Comment(0)
| 日記
2015年04月01日
夜の観桜
![]() 近所の公園にて。 ![]() 当地では今まさに満開のとき。 ![]() 昼間の桜ももちろん綺麗だが、暗闇の中で周囲の灯にうっすらと照らされた花々にはまた別の趣がある。 |
posted by 小澤和也 at 20:25| Comment(0)
| 日記