ここのところ三好達治の詩を読んでいる。 学生時代に合唱曲で親しんだ数篇を除くと、これまで知っていた彼の詩といえば国語の教科書に載っていたこの一節くらいであろうか。 『雪』 太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。 次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。 この有名な詩が収められているのが彼の第一詩集『測量船』であることを知ったのも(恥かしながら)最近のことだ。 収められているのは詩、散文詩、そして短歌とバラエティ豊富。 若き詩人の鋭敏な才能はこの処女作品においてすでに遺憾なく発揮されている。 以下、いまの僕の心に響いている詩をいくつか挙げてみる。 (詩はすべて適宜抜粋) 『甃(いし)のうへ』 あはれ花びらながれ をみなごに花びらながれ をみなごしめやかに語らひあゆみ うららかの跫音(あしおと)空にながれ をりふしに瞳をあげて 翳りなきみ寺の春をすぎゆくなり etc.... 柔らかく、かつリズミカルな言葉の運び。 細くたなびく一本の笛の音のようなたおやかさ。 美しい詩である。 『Enfance finie』 海の遠くに島が…、雨に椿の花が堕ちた。鳥籠に春が、春が鳥のゐない鳥籠に。 約束はみんな壊れたね。 海には雲が、ね、空には地球が、映ってゐるね。 空には階段があるね。 etc.... 過ぎ去りし少年時代の遠い記憶。 若さゆえの苦悩、孤独、そして夢想。 『詩人の恋』終曲の、ピアノによる長い長い後奏を想起させる。 『郷愁』 蝶のやうな私の郷愁!……。蝶はいくつか籬(まがき)を越え、午後の街角に海を見る……。etc.... 「海、遠い海よ! と私は紙にしたためる。ー海よ、僕らの使ふ文字では、お前の中に母がゐる。そして母よ、佛蘭西人の言葉では、あなたの中に海がある。」 これも大好きな詩だ。 "母なる海" への無限の憧憬。 蛇足だがフランス語で母はmère、海はmer と綴る。 そして僕の頭の中では『マ・メール・ロワ』〜『妖精の園』が鳴っている。 (言うなればこれも "母なる音楽" か) |
2015年05月29日
測量船
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2015年05月26日
合唱団あしべの歌声
中央地域まつり。 合唱団あしべにとって楽しみな発表の場のひとつである。 (24日、東小松川公園) 開会セレモニーではいつものように、あしべが舞台前で江戸川区歌を斉唱。 だが… ここでちょっとしたハプニングが! 区歌はカラオケをバックに歌うのだが、今年はその音源が差し替えられ(アレンジも変更!)、曲間の間奏が変わっています、と開式直前に聞かされたのだ。 これにはびっくり仰天! 急いで音を確認しメンバーに状況説明。 「ここは今まで2小節だったけど4小節増えたからね!」 「こっちは前奏と同じ長さね!」 本番は無事歌えたものの… 冷汗モノであった。 セレモニーが終わり、様々な団体の演し物の時間に。 もちろんあしべも出演。 今年は『春の日の花と輝く』『美女と野獣』『愛燦燦』の3曲を歌う。 さて今回のステージ、あしべにとってひとつの大きな節目となる演奏でもあった。 合唱団創立以来、三十余年の長きにわたって伴奏ピアニストを務められた浅野正美先生が今月をもって勇退されたのである。 22日のレッスンが、浅野先生の伴奏で歌う最後の機会となった。 そして ー この日録音していただいたピアノの音源をバックに「最後の共演」をさせていただいたのだった。 浅野先生、長い間ありがとうございました。 (一昨年秋の合唱祭にて) |
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2015年05月21日
佳境のベートーヴェン
今日も立川にて合唱稽古。 4月からの新しいシーズンは『ラ・ボエーム』の譜読み+出演依頼を受けてのベートーヴェン/幻想曲op.80の並行練習で始まった。 前半はイタリア語にどっぷり浸り、そして後半はドイツ語をバリバリと… 団員の皆さん、凄いパワー&適応力である! ベートーヴェンの練習風景。 (合唱指導・宮崎先生撮影) 気付けば演奏会まであと一ヶ月! マエストロとのプローべに向け、万全を期したいと思う。 |
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2015年05月15日
演奏会のお知らせ
§第27回 くにたち兼松講堂 音楽の森コンサート 日時…2015年6月21日(日) 15時開演 会場…一橋大学兼松講堂 曲目…ベートーヴェン/ピアノ、合唱と管弦楽のための幻想曲、同/ピアノ協奏曲第4番 他 出演…高井優希(指揮)、小林沙羅(ソプラノ)、福間洸太朗(ピアノ)他 ※立川市民オペラ合唱団(合唱指揮:小澤和也)が幻想曲に出演します。 §東京農工大学グリークラブ 第35回演奏会 日時…2015年8月2日(日) 午後開演 会場…府中の森芸術劇場 ウィーンホール(全席自由、入場無料) 曲目…多田武彦/男声合唱組曲「海に寄せる歌」、木下牧子/女声合唱曲集「光と風をつれて」他 出演…小澤和也(指揮)、速水琢(学生指揮)、宮代佐和子(ピアノ) みなさま、ぜひお運びください。 |
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2015年05月13日
1893年のチャイコフスキー
2月、新しい交響曲の作曲に着手。 (着想は前年よりなされていたようだ) 8月に全曲を完成。 10月28日、自身の指揮で初演。 2日後、『悲愴』の副題を出版社に指示。 そして… 11月6日、没。死因は諸説あり。 交響曲第6番『悲愴』作品74。 その激しく沈痛な曲想に加え、初演直後の急死という余りにも衝撃的な出来事により、以来この作品、そして彼の最晩年には暗く重苦しいイメージがつきまとうこととなった。 死因のひとつに(強制された)自殺説があるのもその証しのひとつであろう。 しかし… チャイコフスキーの1893年はこれだけではない。 出版社からの依頼によるものではあるが『18のピアノ小品』という実にチャーミングな曲集を書いているのだ。 作曲は4月、比較的短い期間で一気に書き上げたようである。 一見、子供向けの小曲のようにも感じられるが決してそうではない。 それぞれに表題のつけられた全18曲、なかでも「子守歌」「瞑想曲」「悲歌」など実に味わい深い佳品たちである。 以下、僕の頭の中に浮かんだあれこれをかいつまんで。 第1曲「即興曲」… 主部はどことなくシューベルト的。夢見るような中間部は『くるみ割り人形』を連想させる。 第4曲「性格的な舞曲」… スペインの陽光。中間部はなぜかシューマン風。 第7曲「演奏会用ポロネーズ」… 『オネーギン』の華麗なる残照。 第9曲「シューマン風に」… チャイコフスキーのユーモアセンスが抜群! 第10曲「幻想的スケルツォ」… 右手の細やかな音型に『悲愴』交響曲第3楽章を思わせる瞬間がある。 第12曲「いたずらっ子」… タイトル共々『子供の情景』を連想させる可愛らしさ。 第15曲「ショパン風に」… 出だしだけ聴くとまあこんなものかと思うが、中間部に入ると思わずニヤリとしてしまう。 第16曲「5拍子のワルツ」… 曲想こそ異なるが、『悲愴』交響曲第2楽章と何らかの繋がりがあるように思えてならない。 第18曲「踊りの情景」… 弦楽セレナードの終楽章を思い出させる激しいロシア舞曲。 第5交響曲以降、『眠りの森の美女』『スペードの女王』『くるみ割り人形』などの傑作を次々と発表してきたチャイコフスキー。 この『18のピアノ小品』、規模こそ小さいものの彼の音楽的充実と当時の清澄な気分とを表した「隠れた名作」だと思う。 |
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2015年05月08日
プッチーニとジグソーパズル
連休明けの昨日、立川市民オペラ合唱団のプローベへ。
先月からスタートした『ラ・ボエーム』の音取り稽古もこの日で4週め。
コーラスにとって(ほぼ)唯一にして最大の見せ場である第2幕の譜読みも着々と進んでいる。
ところで…
プッチーニの合唱は難しい。
それはヴェルディ、あるいはドニゼッティの難しさとは微妙に異なる。
今回のラ・ボエームでも、ほんのひと節歌っては休みを数え、また歌っては休む…といった部分が多い。
歌う部分ももちろんだが、この「休みを数える」作業が大変なのだ。
この日、男声パートの稽古を見ながらこんなことを考えた。
〈ラ・ボエームの合唱の1フレーズというのは、あたかもジグソーパズルのピースのようだなあ〉と。
例えばテノールだけ、あるいはバスだけを単独で歌ったのでは、そこに何の絵柄が描かれているのかがさっぱり分からない。
だが、コーラスが全パートぴたりと合わさったとき、さらにはそれが独唱やオケと見事に重なり合ったときには、実に美しいフォルムが浮かび上がってくるのだ。
それを実感するためには…
結局のところ地道なパート練習が大切ということになるか。
やっぱりピースは1つ1つ、正しい場所に置かないとね。
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2015年05月04日
今日は近場でのんびりと
近所の蕎麦やさんでゆっくりとお昼。 まずは いつもの蕎麦茶と揚げ蕎麦から。 オーダーしたのは これまたいつもの田舎蕎麦と海老かき揚げ。 お蕎麦はつゆで戴いたり塩で戴いたり。 どちらも美味しい。 徒歩圏にこんなお店があるのは嬉しいものだ。 店を出る。 真っ直ぐ家には戻らず、 軽く運試しを兼ねて食後の散歩へ。 そして… …おお、残念でした。 落ち着いた雰囲気の喫茶店なのだが、 店休日が読めないことしばしば。 帰宅。 家でコーヒーを淹れる。 デザートは最近お気に入りの ヨゼフ・クリップスのモーツァルト。 今日は近場でのんびりと。 |
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2015年05月02日
若き俊英たちのオペラアンサンブル
Bella vita モーツァルト『ドン・ジョヴァンニ』へ。 (1日@小金井 宮地楽器ホール) 立川の市民オペラ合唱団をいつもサポートしてくださるメンバーが多く出演されているということでお誘いいただいた公演。 ホールにピットがないため、オーケストラは客席下手壁際にコンパクトにまとまってレイアウトされていた。 苦肉の策ながらナイスアイディア。 まず感じたのがユニークな演出。 多少未整理な箇所も見えたが、その意図するところは伝わっていた。 徹頭徹尾ブッフォ(ときにお笑い的なほどに)にストーリーが展開してゆく。 パンフレットに紹介されていた「血が苦手なドン・オッターヴィオ」「酒に弱いドン・ジョヴァンニ」といった設定も面白い。 キャストの皆さん、素晴らしかった。 タイトルロール(新造太郎さん)およびレポレッロ(高橋正尚さん)の抜群の安定感と存在感、ドンナ・アンナ(伊藤晴さん)とドン・オッターヴィオ(吉田連さん)はそれぞれアリアで圧倒的な美声を聴かせてくださった。 舞台上でピカピカと光を放っていたのがヅェルリーナ(藤原唯さん)、そして特に第2幕で迫真の演技を見せてくださったのがドンナ・エルヴィーラ(実川裕紀さん)。 ひとつ残念に思ったのが、オーケストラと歌とのバランスがどうだったか、である。 僕は1階席の上手側ほぼ壁寄りに座ったのだが、それでも時折器楽の音塊が声をマスクする瞬間が多々あった。 下手寄り、あるいは2階席ではどのように聞こえていただろう。 上述のように制約の多いホールであったわけだけれども… ともあれ、全体的には大いに楽しめる内容であった。 いろいろ考えて結局行き着くのは「モーツァルトの音楽はなんて素晴らしいんだろう」の一点に尽きる。 でも、それを活かすか殺すかはパフォーマーたちの「思い」の強さだろう。 チームワーク、(良い意味での)勢い、そしてスタミナ… "若さ" というものの持つメリットを最大限に感じさせてくれた公演だった。 ご盛会おめでとうございます。 |
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