2018年10月19日

ブロムシュテットさんのブルックナー

 
NHK交響楽団 
第1894回定期演奏会を聴く。
(14日、NHKホール)
 
 
この日を待っていた。
ブロムシュテットさんのブルックナー。
ぜひ5番か9番を!とずっと願っていたのだ。
 
N響との共演でたしか「ロマンティシェ」を以前聴いているはず、と思い調べてみると...
2008年1月の第1610回定期だった。
 
あれからもう10年になるのか。
光陰に関守なし。
 
その際ブルックナーに先立って演奏されたのが、なんと今回と同じモーツァルト「プラハ」交響曲!
ブロムシュテットさんにとってよほどお気に入りの曲なのだろう。
 
 
「プラハ」交響曲の冒頭はニ長調の堂々たるユニゾン(斉奏)。
4小節目ではじめて和音(Fis→h)が奏されるのだが、その柔らかなサウンドに思わず息を飲む。
マエストロはきっと響きの美しさにこだわり抜いたに違いないし、オーケストラもそれに懸命に応えていたのは明らかである。
 
 
N響の弦および木管セクションの素晴らしさは言うまでもないが、僕がこの演奏でもっとも感服したのは金管、ことにトランペットの鋭敏なバランス感覚。
あるときはティンパニとともに軽快な打ち込みを見せ、またあるときは木管&ホルンと完全に融け合った天上の声となって鳴りわたるのだ。
 
第2楽章アンダンテでは響きの透明度がいっそう増し、あたかも最晩年の作品(例えば最後のピアノ協奏曲K.595)の如く、目にいっぱい涙を湛えつつ静かに微笑んでいるモーツァルトの顔が浮かんでくるようであった。
第3楽章はふたたび幸福感溢れるフィナーレ。
ブロムシュテットさんは全曲を通してすべてのリピートを実行したが、一瞬の弛緩もない鮮やかな演奏だった。
 
 
そしていよいよブルックナーである。
第1楽章の序奏〜第1主題部は僕の想像どおり、バランスと造形感覚に意を用いたストイックな解釈。
19小節目〜のホルンのファンファーレ、金属的な強い響きでありながら暗く引き締まったやや硬質なサウンドだったのが印象的だった。
 
第2主題部および第3主題部では一転してカンタービレな気分が全体を支配する。
この部分にこれほどの明るさ、あたたかさを感じたのは初めてかもしれない。
客席からはもちろん分からなかったが、ブロムシュテットさんのあの微笑みが響きの中から見えてくるようであった。
Langsamer(よりゆっくりと)、4/4拍子の第2主題部とModerato、2/2拍子の第3主題部とのテンポ設定のコントラストも見事。
 
展開部以降においても、ブルックナー特有の、楽想ごとにフェルマータやゲネラルパウゼ(総休止)で流れを区切るいわゆる「ブロック構造」が頻出するのだが、マエストロは各主題およびモティーフの性格の対比を明確に描き分けており、それが結果的に強い説得力を帯びていた。
 
第2楽章スケルツォ。
僕がこの日もっとも注目していたポイントのひとつがこの楽章の中間部(Schnell(速く)と指示されている)、その第2の楽想(練習記号B〜)をブロムシュテットさんがどのように扱うか、であった。
 
 
この部分、レコードでも実演でもなぜかゆっくりと演奏されることが多く、ずっと不思議に思っていたのだ。
そしてこの日の演奏はー
2連符をたっぷりと歌う(=若干緩む)ヴァイオリンに対し、ブロムシュテットさんが巧みにテンポを引き締める、といった印象であった。
リハーサルではどのようなやり取りがあったのだろう。
 
第3楽章は「結果として」ブルックナーが完成させた最後の楽章となった。
近年では、遺されたスケッチをもとに終楽章の復元が試みられ録音や実演もなされているが、伝統的にはこのアダージョで全曲が結ばれるような演奏スタイルとなることが多い。
 
ブロムシュテットさんの指揮ぶり、(あくまで個人的な感想であるが)これまでの2つの楽章に比べ「思い入れ」の濃度が圧倒的に高かったように感じられてならない。
もちろん我を忘れるような、ましてや楽曲のフォルムを崩すような解釈ではないが、非常に繊細な次元において「何かが籠められていた」ように見えたのだ。
それが何なのかはわからない...
もしかしたら、以前TV番組のインタビューで仰っていた
『長年指揮を続けていて、(曲の解釈において)少し“自由になりました”』
という言葉と繋がりがあるかも知れない。
 
全曲の結尾、ブルックナーの書いた極限まで澄み切った響きに「彼岸」をみるような境地の演奏の多い中で、ブロムシュテットさんは実にさりげなく最後の十数小節を進めてゆく。
「これで終わりなのではない...ブルックナーの頭の中には“この続き”があったのだよ...私たちはそれを聴けないけれど、ね」
と優しく僕らに語りかけるように。
posted by 小澤和也 at 11:55| Comment(0) | 日記