2021年11月27日

カヴァレリア・ルスティカーナの源流をたどる (1)



イタリアオペラにおけるヴェリズモ (verismo:現実主義) の起点となった「カヴァレリア・ルスティカーナ」(マスカーニ作曲)。

つい先日、ちょっとしたきっかけでその原作となる小説を初めて手にした。
文庫本で10ページちょっとの短編。
拍子抜けするほどの簡潔さであった。
そして、この物語がオペラ化される前段階として戯曲「カヴァレリア〜」なるものが存在することを不覚にもこれまた初めて知る。

オペラ中の合唱ナンバーである「オレンジの花香り」と「レジナ・チェリ」、これらのシーンはいずれも (当然といえば当然だが) 小説にも戯曲にも出てこない。
ならばせめて両底本をじっくり読み込んで、舞台の情景や人物たちの心情を少しでも理解したいと思うようになった。

まずは小説から。


【小説/カヴァレリア・ルスティカーナ】

ジョヴァンニ・ヴェルガ作
短編集「田舎の生活」(1880年刊) 所収

主な登場人物:
ヌンツィア (トゥリッドゥの母親)
トゥリッドゥ・マッカ
ローラ (農園主アンジェロの娘)
アルフィオ (馬車引き、ローラの夫)
サントゥッツァ (農園主コーラの娘)

小説 (および戯曲) ではトゥリッドゥの母親の名前はヌンツィア、オペラではルチーアとなる。
そしてもうひとつ。
サントゥッツァが「(豚のような金持ちの) 農園主コーラのかわいい娘」と本文中に明記されているのだ。
オペラの中での設定と微妙に異なるように感じるのは僕だけではないだろう。(後述)


本文は特に段落等の区切りを置いていないが、ここでは便宜的に全体を5つの部分に分けて要約を試みる。

[T]
その1: 
トゥリッドゥの風貌や素行についての描写。
彼は自分の兵役中にリコーディアの男 (=アルフィオ) と婚約してしまったローラの窓下で毎夜、彼女への侮蔑を歌にし怒りをぶちまける。

その2:
ようやく出会ったローラとの会話。
未練たらたらのトゥリッドゥ、対してまったく意に介することのないローラ。
『(アルフィオとの婚約について) だって神様の思し召しですもの!』
トゥリッドゥはそんなローラの態度が面白くない...そしてアルフィオは金持ちだ。
『この雌犬め、今に見ていろよ!』

[U]
その1:
トゥリッドゥはアルフィオの家の前に住む農園主コーラに取り入ってその家に出入りするようになり、彼の娘に甘い言葉をかけ始める。
サントゥッツァとトゥリッドゥの会話。
『お前にぞっこんだ...眠れないし食事も喉を通らない』
『ウソばっかり』
サントゥッツァも次第にその気に。

その2:
二人の様子を毎夜隠れて聞いていたローラ。
ある日トゥリッドゥに声をかける。
『それじゃあ、昔の友達にはもう声もかけないの?〜その気があるなら、あたしなら家にいるわよ!』

その3:
トゥリッドゥはまたローラに会いにたびたび通うようになる。
それに気付き、窓を叩いて悔しがるサントゥッツァ。

[V]
復活祭を間近に控え、大いに稼いで帰ってきたアルフィオとサントゥッツァの会話。
『あんたが留守の間に奥さんは家を飾っていたのよ』
ローラとトゥリッドゥの不義を聞かされ血相を変えるアルフィオ。
『よし、わかった...礼を言うぜ』

[W]
その1:
アルフィオが家に戻って以来トゥリッドゥは日々居酒屋で油を売っている。
復活祭前日、そこへアルフィオが現れる。
二人の会話。
互いに決闘のキスを交わし、トゥリッドゥはアルフィオの耳を噛む...こうして彼は約束を必ず守ると誓いを立てた。

その2:
息子の帰りを待っていたヌンツィアに語りかけるトゥリッドゥ。
『母さん...俺が兵隊に行ったときのようにキスしてくれないか、俺は明日の朝遠くへ行ってしまうんだ』

その3:
ローラとアルフィオの会話。
『まあ!そんなに急いでどこへ行くの?』
『すぐ近くさ...お前にはもう俺が戻ってこないほうがよいのだろうが』
ベッドの足元でひたすら祈るローラ。

[X]
トゥリッドゥとアルフィオの決闘の場面。
『俺が間違っているのはわかっている...でも...老いた俺の母さんを泣かせないために...俺はお前を犬ころのように殺すだろう』
『よし、わかった』

トゥリッドゥは腕に突きを受け、アルフィオの鼠径部を刺し返す。
不意にアルフィオが砂を掴み相手の目に向けて投げつける...怯むトゥリッドゥ。
アルフィオはトゥリッドゥを捕まえ、腹へ、そして最後は喉元へ...
『これで三つだ!俺の家を飾ってくれた礼だぜ』
崩れ落ちるトゥリッドゥ。
血が喉から泡を立てて流れ出る。
『ああ、母さん!』

ー 完 ー


オペラ化に際して新たに色付けされた部分は当然ながら多い。
上述のように合唱が登場する場面はほぼそうである。
またオペラではサントゥッツァの存在が軸となり、彼女とルチーア (小説ではヌンツィア)、彼女とトゥリッドゥ、同じくアルフィオとの対話が物語を運んでゆくわけであるが、小説においてはアルフィオとのやりとりしか描かれていない...扱いが軽いのだ。
その意味で決定的なのが決闘の場面のトゥリッドゥの言葉である。
彼は自分の非を認めつつそれでも闘う理由として『母さんを泣かせたくないから』とアルフィオに告げている。
(オペラにおいては [酒場での決闘の約束のシーンで] サントゥッツァを残して死ぬわけにはいかない、と心情を吐露している...この違いは大きい)

逆のパターンもある。
物語のラスト、トゥリッドゥとアルフィオの決闘の場面 ([5]) が小説の中では実に克明に描かれているのだ。
(オペラでは決闘は舞台の外で行われ、目撃者による叫び声によってトゥリッドゥの死が告げられるだけである)
また上記 [U] の部分、サントゥッツァを口説くトゥリッドゥ、人妻ローラの誘惑の場面もオペラでは (既知のものとして) 省かれている。


ヴェルガのこの原作、短いけれど内容の濃い、読み返すほどに味の出るスルメのような小説であった。
戯曲「カヴァレリア・ルスティカーナ」についても追って触れてみたいと思っている。


[参考資料]
・カヴァレリーア・ルスティカーナ/河島英昭訳 (岩波文庫)
・短編「カヴァレリア・ルスティカーナ」翻訳/武田好 (星美学園短期大学研究論叢第40号)
・Cavalleria rusticana/Giovanni Verga (OMBand Digital Editions)
posted by 小澤和也 at 00:44| Comment(0) | 音楽雑記帳