2023年07月20日
サントゥッツァの祈り
マスカーニ作曲『カヴァレリア・ルスティカーナ』の「間奏曲」。
古今東西のオペラの中でおそらくは最も有名な、そして最も愛されている旋律ではないだろうか。
舞台はシチリアのとある村、物語の前半で三角関係の生々しい愛憎劇が繰り広げられた後、一瞬の静寂の中から不意に美しいメロディが流れ出す。
(それは先に合唱で歌われた “Regina Cœli《天の元后》“ の旋律である)
これら両者の著しいコントラストこそが「間奏曲」の聞かせどころであり存在理由なのだ、と僕はずっと思っていた。
あるとき、このメロディに歌詞をつけて歌われているのを聴いた。
タイトルは “Ave Maria《アヴェ・マリア》”、だが私たちのよく知るラテン語の典礼文ではない。
(この詞はなんだろう...?)
謎はすぐに解けた。
ピエロ・マッツォーニ (1833-1907) 作詞、ベルンハルト・ヴォルフ (1835-1906) 編曲による“Ave Maria” が出版されていた。
作られた時期は不明だが、上記2名の没年から判断して19世紀末〜次世紀初頭であろう。
マッツォーニによるイタリア語歌詞の拙訳を以下に掲げる。
アヴェ マリア、聖なる御母よ
邪悪なる苦悩の道のなかで
御身に懇願する哀れな者の足を支えてください
そして信仰と希望を心に呼び覚ましてください
慈悲深きお方、いたく苦しまれた御身、
ああ!とめどなき涙とともに
残酷な苦悶のなかにある私の苦しみをご覧ください
どうか私をお見捨てにならないでください!
アヴェ マリア、悲しみの淵に
私を置き去りにしないでください
御身、憐れみください!
私を置き去りにしないでください
相愛のはずのトゥリッドゥに罵られ、人妻でありながら彼に再び近づいたローラにも皮肉たっぷりに揶揄されるサントゥッツァ。
思い詰めた挙句、彼女はローラの夫アルフィオに事の顛末を暴露...逆上するアルフィオ、サントゥッツァの後悔も時既に遅し。
〜そんな絶望の淵にあって聖母マリアに救いを求めるサントゥッツァの心情にぴったりの詩ではないだろうか。
これを知ってから、僕の中で「間奏曲」の聞こえかたは明らかに変わったのだった。
次に僕が考えたのは
(この歌を日本語で歌えたら...)
柴田睦陸による訳詞を見つけた。
「あわれや みむねにすがり/ひたすらいのるを...」
実に美しい詞だ。
ただ、氏の訳は原詞の第2連以降のみである。
(それならば...)
分不相応な振舞いと知ったうえで、第1連を起こしてみた。
柴田睦陸の訳詞と並べて (なんと烏滸がましいことか!) 以下に記す。
アヴェマリア めでたき
あめのきさき いつくしみもて
くるしきこころに
のぞみあたえたまえ
あわれや みむねにすがり
ひたすらいのるを
なみだもかれて すべもはやなし
すくいたまえ アヴェマリア
まもらせたまえや みははなるきみ
まもらせたまえや このみを
曲のタイトルはもちろん『アヴェ・マリア』だが、一歩踏み込んで
『サントゥッツァの祈り』
でも良いのではないかしら、などとと考えたりもした。
2023年07月11日
きょうは何の日? (7月11日)
この日を待っていました... 7月11日はヘルベルト・ブロムシュテットさんの96回目(!)の誕生日。 Alles Gute zum 96. Geburtstag, Maestro Blomstedt! 今夜はブロムシュテットのCDを聴きながらのんびり過ごそう、などと考えていたら... Twitterの相互フォロワーさんから「きょうはフランデレン (フランダース) の日」ということをご教示いただきびっくり。 そのような記念日があることを不覚にもまったく知りませんでしたが、真っ先に考えたのが 〜なぜ7/11なのだろう?...きっと歴史的に重要な出来事があったのだろうな〜 調べ始めて...すぐにわかりました。 1302年のこの日、フランデレン (商業・貿易の要衝として栄えていた) の都市連合軍が同地域の併合を企んだフランス軍に勝利を収めた “金拍車の戦い(コルトレイクの戦い)” にちなんでとのこと。 僕にとって “金拍車の戦い” といえば...これしかない! 〜ということで ペーテル・ブノワの『スヘルデ川』第2部のスコアを広げます。 『スヘルデ川』は全三部からなるオラトリオ、1868年に作曲されたペーテル・ブノワの出世作。 その第2部前半では、コルトレイクで実際に戦ったとされる「獅子爪党 (フランデレン側)」と「百合党 (フランス側)」が二群の男声合唱の形で応酬を繰り広げます。 (スコアの中央あたりにある4段の合唱パート、その上二段が獅子爪党、下二段が百合党) 《かなり以前の拙文ですが『スヘルデ川』第2部前半について書いています...よろしければご覧ください》 小澤和也 音楽ノート ブノワ(32): オラトリオ『スヘルデ』[2] http://kazuyaozawa.com/s/article/113709836.html 同曲の音源がYoutube上にありました。 https://m.youtube.com/watch?v=CNtzvvwQT-c 【聴きどころ】 オラトリオ第2部: 29’40”〜 くだんの男声合唱応酬: 33’00”〜 ヤコブ・ヴァン・アルテヴェルデ[の霊魂]の歌 (バリトンの名アリア!全曲中の白眉です): 41’05”〜 何だか取留めのない文章になってしまいましたが... 有志以来、常に自治を重んじ外敵からの脅威に抗い続けてきたフランデレンらしい歴史感覚なのだろうな、と『スヘルデ』のレコードを聴きながら感慨を新たにしたのでした。 |
2023年07月01日
演奏会のごあんない

《ベルギーの作曲家ペーテル・ブノワの知られざる名曲を12名の精鋭が歌います》
ペーテル・ブノワ研究会 発足記念演奏会
PETER BENOIT
“HOOGMIS” (荘厳ミサ)
2023年9月23日(土・祝)
15:00開演
@ピアノスタジオフィックス立川
(JR立川駅、多摩都市モノレール立川南駅下車)
フォーレ: ラシーヌの雅歌 作品11
ブラームス: マリアの歌 作品22
ブノワ: 荘厳ミサ
PBIヴォーカル・アンサンブル
冨田優(ピアノ)
小澤和也(指揮)
全席自由 2500円
主催: ペーテル・ブノワ研究会 Peter Benoit Instituut
お問い合わせ: pbi340817@gmail.com
日本では2008年の初演以来、おそらくは二度目の演奏となります。
みなさま、どうぞお出かけください。