2024年11月29日

牧野正人先生


日本を代表するバリトン歌手・牧野正人さんの訃報をSNSで知りました。
闘病されているのは以前から存じ上げていましたが...まさか...こんなに早く...


牧野先生に初めてお目にかかったのは1987年でした。
私が当時所属していた大学サークル合唱団の記念演奏会にご出演いただいたのです。
フォーレ「レクイエム」で素晴らしい“Libera me”を聴かせてくださいました。
牧野先生の堂々たるお姿を私はステージ後方から眩しく見つめていました。

そんな“神様”のようなお方が終演後のレセプションで
『それではナポリ民謡“Santa Lucia”を歌います!』
(一同大歓声と拍手)

ところが、聞こえてきた詞は「黒田節」だったのです。

酒は飲めのめ 飲むならば
日の本一の この槍を
...

状況が飲み込めず呆気に取られて聴いていると、牧野先生は指を一本、二本と出しながら
『一(いち)樽、二(に)樽...』
そしてニヤリと笑って
『サンタ〜〜・ルチーア!』

一瞬の静寂ののち...
会場が嵐のような喝采に包まれたあの光景を今でも昨日のことのように思い出すことができます。

それから十余年が経過し、オペラの現場で牧野先生とふたたびご一緒できることになろうとは...
マルチェッロ(ラ・ボエーム)、アモナズロ(アイーダ)、そして何といってもジェルモン(ラ・トラヴィアータ)...!
すべてが宝物のような時間でした。

(あの時の学生指揮者が私であったことなど、先生は決して憶えていらっしゃらないだろうな...次にお会いしたらお話ししなければ...)

ずっと思っていたのですが...
叶いませんでした。


牧野先生の声とその姿から、私は多くのものを学びました。
ただただ感謝の気持ちでいっぱいです。
ありがとうございました。
どうぞ安らかに。
posted by 小澤和也 at 11:59| Comment(0) | 日記