![]() (オラニエ公ウィレムの霊魂の主題) 【第2部・後半】 前回と同様、オラトリオのテキストを紹介する前に、当時のフランデレン史についてざっと触れておこう。 15世紀末、フランデレンの地はスペイン・ハプスブルク家の領地となった。 この時期、フランデレンの呼び名は姿を消し、現在のオランダと合わせて「ネーデルラント」と称された。 その後、ドイツで興った宗教改革の流れを受け、16世紀後半よりスペインによるネーデルラント地域への圧政が目に余るようになる。 そこで立ち上がったのが、オラニエ公ウィレムを中心とした貴族たちであった。 彼らはスペイン陣営側から「乞食たち」と呼ばれ、また自らもそのように名乗っていたという。 オラニエ公は反スペイン勢力の中心的存在となり、のちのネーデルラント独立の礎となった。 第2部後半は、戦火に怯える少女と青年の会話から始まる。 「川面があんなにもかき乱れて! ああ、私は怯えています!」 「臆病にならないで… 愛があなたを導くように ただ祝福のみがあなたを待っています!」 「ああ、そこに死が、薪束、断頭台、絞首台とともに渦巻いている!」 「あれは流れに映る朝霧、 風に揺れるアシがざわざわと立てる音。」 「聞いて、なんという雷鳴!」 「ああっ!」etc. ここでオラニエ公ウィレムの霊魂が現れる。 「民は苦しんでいる、 妄信の束縛が彼らを抑圧する! 来たまえ、ともに闘おう! 耳を貸さぬものはいるか?」 これに男声の二重合唱が力強く応える。 森の乞食党 「我らはゆく、馬でゆく 平原を駆け抜けて勇敢に!」 海の乞食党 「ああ!哀れな民の流した涙が血のようだ。 しかし、ネーデルラントは連帯する!」 乞食党 「我らは街を、そして港を解放する! スペインの激しい暴政から! 前進せよ!我らは勝利する!」etc. そして結びは壮大な男声合唱による賛歌となる。 「ヴィルヘルムス・ファン・ナッソウエ(=オラニエ公を指す)よ、 我らはネーデルラントの血統、 我らは祖国に忠誠を誓う、 神が永遠に護りたもう祖国に、 自由のための、真理の救済のための 聖域のごとき祖国に。 そして我らは喜びに満ちた歓声を上げる、 幸いなるかな、ネーデルラント!」 現代の我々から見れば多分に国粋主義的な内容とも取れるが、当時の、常に外圧と闘ってきたフランデレンの人々にとってはこれが偽らざる心境であったのだろうと思えてならないのだ。 そして〜繰り返しになるが〜ここでブノワの書いた音楽はほんとうに素晴らしい。 (つづく) |
2015年04月22日
ブノワ (33):オラトリオ『スヘルデ』[3]
posted by 小澤和也 at 12:16| Comment(0)
| 音楽雑記帳
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