2015年06月10日

ブラームスを味わう

 
 
ハンブルク・トリオによる
ブラームス/ピアノ三重奏曲全曲演奏会を聴く。
(9日、東京オペラシティリサイタルホール)
 
 
早めに着席してプログラムノートに目を通す。
(おお、これは…ブラームス愛に溢れているなぁ)と思ったら…
奥田佳道さんの解説であった。
 
演目の最初はまずハ長調の第2番(op.87)。
ピアノ協奏曲第2番や交響曲第3番と同時期の、ブラームス充実期の作品である。
決して「小さな」曲ではないのだが、後に続く作品との対比からそのような表現となったのだろうか、力感よりは造形の美しさを前面に出したような端正な演奏だった
中でも第2楽章の変奏曲が全曲中の白眉。
 
続くハ短調の第3番(op.101)は1886年の作曲。
ブラームスは同じ年にチェロ(第2番)とヴァイオリン(第3番)のソナタも書き上げており、これらの成果が翌年の通称「二重協奏曲」に繋がることになる。
1曲めとは対照的に、作品の中に内在するドラマ性が過不足なく引き出されていたように思える。
フィナーレの最後の音が終わると同時にピアノのハーゼンフラッツさんがすっくと立ち上がられたのが印象的だった…会心の演奏であったに違いない。
 
休憩を挟んでの後半、待望の第1番ロ長調(op.8)。
(ブラームスはこの曲を20歳の頃に書いているのだが、その後1889-90年、すなわち30年以上経って新たに筆を加えた…この日の曲順が第2→第3→第1となっている理由もそこにあろう)
楽曲の細部には熟練の彫琢が施されているが元々の素材は若々しく、屈託のない美しい旋律が次々と流れ出すこのうえなく魅力的な作品である。
ピアノの奏でる幅広い第一主題にそっと合流するチェロの音色とバランスにハッとさせられた。
全曲を通してそうだったのだがこのトリオ、要所要所では互いの声部を実に繊細にサポートし合うのだ。
それはあたかもコーラスアンサンブルを聴いているような感覚。
(あくまで僕の乏しい経験の中でのことだが)ピアノ三重奏というものへの認識がごっそりと書き換えられた一夜であった。
また、ピアノの音色がある時はオルガンのように静かに厚く、またある時にはもう一挺の弦楽器のようにうねりをもって聞こえたのも大きな収穫。
 
佳いブラームスを心から味わうことができた。
真に幸福な時間。
終演後、会場で奥田さんにお会いできたのも望外の喜びであった。
 
 
posted by 小澤和也 at 11:05| Comment(0) | 日記
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