2015年07月16日

『海寄せ』に寄せて〈4〉

 
三好達治、昭和16年秋に第六詩集『一点鐘』を刊行。
37編の詩と1編の散文詩を収める。
うち半数近くが「海」に関連する題材をとった詩となっているのが特徴だ。
 
多田武彦も、この詩集の中から組曲の第4〜7曲のテキストを選んだ。
『海 六章』のうちの『ある橋上にて』『既に鴎は』『この浦に』の3編、加えて『鴎どり』である。
 
 
4. 『この浦に』
 
この浦にわれなくば
誰かきかん
この夕(ゆうべ)この海のこゑ
 
この浦にわれなくば
誰か見ん
この朝(あした)この艸(くさ)のかげ
 
 
水彩による小ぶりな、淡い色合いの風景画のような詩。
そのリズムは伝統和歌のように昔風であるが、同時に新鮮さをも感じさせる。
これに付けられた音楽も、1分足らずのひっそりとしたものである。
 
 
6. 『既に鴎は』
 
既に鴎は遠くどこかへ飛び去った
昨日の私の詩のやうに
翼あるものはさいはひな…
 
あとには海が残された
今日の私の心のやうに
何かぶつくさ呟いてゐる…
 
 
昨日と今日、
飛び去った鴎と残された海、
私の詩と私の心 etc.
これらあらゆるものの対比によって、詩人の心の虚しさが静かに浮き彫りにされている。
 
最初の二行はテノールの独唱によってしっとりと歌われ、短いながらも第3曲『涙』と並んでこの組曲の聴きどころとなっている。
 
 
7. 『ある橋上にて』
 
十日くもりてひと日見ゆ
沖の小島はほのかなれ
 
いただきすこし傾きて
あやふきさまにたたずめる
 
はなだに暮るるをちかたに
わが奥つきを見るごとし
 
 
組曲『海に寄せる歌』の終曲にあたる。
音楽の持つ気分は前曲『既に鴎は』に近く、人生の無常を優しく、淡々と歌う。
詩の第三連でにわかに感情が高まるものの、それもすぐに収まってゆく。
 
はなだ(色)【縹色】は、薄い藍色のこと。
おちかた【遠方】は文字通り、あちらの方を指す。
そして、奥つき【奥つ城】は…墓所である。
詩人によって選ばれたこれらの言葉の、哀しいほどの美しさよ。
 
 
組曲第5曲『鴎どり』は…項を改めよう。
 
(つづく)
 
 
posted by 小澤和也 at 00:54| Comment(0) | 音楽雑記帳
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