2016年03月06日

【中期のシューベルト3】ピアノソナタ嬰ハ短調

 
ピアノソナタ嬰ハ短調 D655(未完)
 
 
1819年4月頃に手掛けたとされている、73小節のみのソナタ楽章断片である。
【歌曲を中心に精力的な創作を続けていたシューベルトだが、ピアノソナタに関してはその前年に書かれた2曲も未完に終わっている。(ハ長調D613、ヘ短調D625)】
 
第一主題(譜例A)はユニゾンでうねるような上下行の旋律。
どことなく焦燥感を帯びている。
 
[譜例A]
 
前に挙げた「序曲ホ短調 D648」のそれと同様、リズムモティーフの積み重ねによって形成された主題であり、第6小節よりすぐに推移に入る。
しかしほどなくして、減三和音や即興的な(換言すればやや「取り留めのない」)フレーズを経てすぐにホ長調の第二主題が現れる。(譜例B)
主題旋律自体はゆったりとしたラインを描くが、内声部の小刻みに震える音型がやはり不安な気分を醸し出す。
 
[譜例B]
 
この第二主題は十分に確保される。
次いで再び第一主題のモティーフが展開風に扱われ、新しい楽想(譜例C)も登場。
 
[譜例C]
 
そして、嬰ト短調と嬰ト長調とを揺れ動くチャーミングな結尾をもって呈示部は締めくくられようとする...
が、その最後、譜例Dの下段4小節目の突然の全休止によりその流れは遮られてしまうのだ!
 
[譜例D]
 
この "不意の分断" は僕に、あまりにも有名なある曲を連想させる。
1822年作曲のロ短調交響曲D759(いわゆる「未完成交響曲」)の第1楽章、第二主題の終わりの部分だ。(譜例E)
 
[譜例E]
 
話題をソナタに戻そう。
全休止の後、曲頭(嬰ハ短調)へ戻るための半音階パッセージと反復記号を置いたところで、シューベルトの筆は途絶えている。
 
以下は僕の想像である。
シューベルトはこのソナタで、中期のベートーヴェン的ないわゆる「主題労作」による楽曲構成を改めて試みたのではないだろうか。
遺された呈示部までにおいてすでに、そのための懸命の努力の痕跡を感じるのだ。
そしていよいよ展開部へさしかかる...というところで、22歳のシューベルトは苦悩し格闘し、結果的に先へ進むことを断念したように思えてならない。
もしシューベルトがこの楽章だけでも完成させてくれていたならば...
 
 
【追記】
譜例Dの終わりから「再現部へ入る」と見なす解釈があり、実際そのように補筆され録音もされているということをインターネットで知りました。
なるほど!一理ある!と思いました。
それでも、上記本文のように僕が考え、感じたというのも(少なくとも僕の中では)紛れもない事実なので、これはこれで残すこととします。
 
 
posted by 小澤和也 at 12:38| Comment(0) | 音楽雑記帳
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