2016年08月02日

続々:「魔王」と「ハンノキの王」

 
J.G.ヘルダー
(1744-1803)
 
 
またまた「ハンノキの王」について。
 
"こんな夜遅く風を衝いて馬を駆るのは誰か?"
ゲーテの名作 "Erlkönig"(いわゆる『魔王』) の冒頭である。
そして、この詩に生命を与えるインスピレーションの源となった作品こそ、J. G. ヘルダーがデンマークの古い伝説から訳した "Erlkönigs Tochter"(『ハンノキの王の娘』) であった。
 
いろいろと調べ、また助言も頂戴してその原文に当たることができたので、得意のナンチャッテ翻訳でここに挙げてみたいと思う。
 
 
『ハンノキの王の娘』
 
オールフ氏は真夜中に遠く馬でゆく
結婚の申し出をするために
 
緑の地に妖精たちが踊っている
魔王の娘が手を差し伸べる
 
「ようこそ オールフさん!何を急いでいるのです?
こちらへ来て私と踊ってくださいな」
 
「私は踊れぬ、踊りたくもない
明日の朝は私の結婚式なのだ」
 
「オールフさん、私と踊ってくださいな
ふたつの黄金の拍車をあなたにあげますから
 
絹のシャツはとっても白くて上等ですよ
私の母が月の光で漂白したのです」
 
「私は踊れぬ、踊りたくもない
明日の朝は私の結婚式なのだ」
 
「オールフさん、私と踊ってくださいな
黄金の山をあなたにあげますから」
 
「黄金の山はうれしく受け取りたいが
私は踊れぬしそうすべきでもない」
 
「私と踊らないつもりなら、オールフさん
悪疫と病があなたを追っていきますよ」
 
娘は彼の心臓に一撃を与えた
彼がこれまで感じたことのないような痛みを
 
娘は青ざめた彼を馬に乗せた
「お前の大切な女のもとへ帰るがいい」
 
彼が家の戸口に着くと
母親が震えながらそこに立っていた
 
「わが息子よ、私にすぐ話して
お前の顔色はなぜそんなに青白いのかい?」
 
「青ざめずにはいられましょうか
私は魔王の国に遭遇したのです」
 
「愛するわが息子よ
私はお前の花嫁に何と言おう?」
 
「彼女に言ってください、私は森にいます
馬と猟犬を試すためにと」
 
翌朝早く夜がまだ明けぬうちに
花嫁は結婚式の客たちとやってきた
 
彼女は蜂蜜酒を、葡萄酒をふるまった
「オールフさんは、私の花婿はどこに?」
 
「オールフさんは今、森へ行っています
馬と猟犬を試しているのです」
 
花嫁は緋色のとばりを持ち上げた
そこにオールフ氏は横たわり、死んでいた
 
 
拙い訳だが、雰囲気だけでも感じ取っていただけるだろうか。
幻想的な、そしてどこか怪談めいたメルヘンである。
ゲーテ『魔王』の表出する切迫感&リアリティとは対照的だ...実に興味深い。
そして改めて、ゲーテの凄さを思わざるを得ないのだ。
 
さて今回、両作品を比べていてちょっと面白いことに気づいた。
それぞれの詩の第一行、および最終行を並記してみる。
 
【ヘルダー】
Herr Oluf reitet spät und weit,
(...)
Da lag Herr Oluf und war tot.
 
【ゲーテ】
Wer reitet so spät durch Nacht und Wind?
(...)
In seinen Armen das Kind war tot.

reitet, spät, 
そして最後の "war tot."
ここでゲーテはやはり、意識して言葉を選んでいるのだろう。
「見事な本歌取」と言ったら大袈裟であろうか。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
posted by 小澤和也 at 09:33| Comment(0) | 日記
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