2016年12月26日

ブロムシュテットさんの『第九』

 
 
N響創立90周年記念
ベートーヴェン「第9」演奏会 を聴く。
(23日、NHKホール)
 
この機会は逃したくなかった。
チケット発売初日に席を押さえ、この日が来るのをひたすら待っていた。
 
 
 
早足で颯爽と登場するマエストロ。
昨年のN響定期公演での第1、第2交響曲、そしてエロイカを聴いて想像していたとおり、基本テンポを速めにとったストイックなベートーヴェン演奏である。
譜面台の上には閉じられたままのベーレンライター版のスコア。
(ブロムシュテットさんがこれを開くことはない)
 
第1楽章は推進するエネルギーを注入し続けるマエストロの指揮と、確実に歩を進めようとするオーケストラとの間で息がピタリと合った(!)、奇跡的なまでに絶妙なテンポをもって始まり、その求心力は終始損なわれることがない。
この第1楽章にこれほどまでに「(楽曲構成的な) 隙の無さ」を感じたのは不覚にも初めてであった。
 
続く第2楽章。
対向配置の弦楽セクションが織りなす冒頭のフガートは音響的にはもちろん、視覚的にも愉しい。
そして、通常省略されることの多いスケルツォ主部後半のリピート (159-399小節) をブロムシュテットさんは楽譜どおりに実行する。
楽曲のフォルムはやはりこのほうが断然美しいと、聴きながら改めて確信した。
 
第3楽章の速度指示は実に演奏家泣かせだ (と僕は思っている)。
主部は "Adagio molto e cantabile" なのに (敢えて「なのに」と書かせていただく) 四分音符=60、副次部は "Andante moderato" で四分音符=63、なのだ。
だから、往年の名指揮者たちはしばしば、このアダージョを非常にゆっくりと演奏する。
しかしブロムシュテットさんはここでもスコアに忠実であった。
曲の冒頭、一瞬アンサンブルが乱れる。
変な言い方なのだが...とても解る気がした。
オーケストラはすぐに立て直し、それ以降はこのうえなく美しい、まさに極楽境の如き音楽を奏でてゆく。
(もっとずっと聴いていたかった、というのが本音である)
 
そしていよいよ第4楽章へ。
東京オペラシンガーズによる合唱が何といっても素晴らしかった...特にアルトの響き!
冒頭の決然たるレチタティーヴォ、同じく低弦に始まる「歓喜の主題」の気高さ、超速のマーチ (テノール独唱が弱かったのが残念) とそれに続くオーケストラのポリフォニーのせめぎ合いetc. と素晴らしい瞬間の連続であったが、なかでも僕が思わずハッと息を飲んだのが第627小節〜の楽節である。
(コーラスが "Ihr stürzt nieder, Millionen?" と歌うその直前)
ヴァイオリンとコントラバスが沈黙し、ヴィオラとチェロのみが木管を伴って神秘的なコラールを奏するこの部分、対向配置では両弦楽器と木管がステージ中央に集まり、精妙に融け合った響きをつくり出すのだ!
 
音楽を「体験」する。
コンサートへ出かけてこのような気分になったのは久々だ。
ブロムシュテットさんの『第九』...忘れられぬ、否、忘れたくない演奏会であった。
僕の目指す音楽に最も近い (もちろんそれは遥か彼方にあるのだが) ものが、あの演奏の中にはあったのだ。
 
 
 
 
 
 
 
posted by 小澤和也 at 08:46| Comment(0) | 日記
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