この7月に農工大グリークラブと演奏する多田武彦/男声合唱組曲『白き花鳥図』。
北原白秋による同名の詩集 (厳密には詩集『海豹と雲』の中に『白き花鳥図』という題でまとめられた18の詩) から6編を選び付曲されている。
以下、それらの詩についてのメモを、僕自身の備忘録も兼ねて気ままに書いていこうと思う。
『白鷺』
白鷺は、その一羽、
睡蓮の花を食(は)み、
水を食(は)み、
かうかうとありくなり。
白鷺は貴くて、
身のほそり煙るなり、
冠毛(かむりげ)の払子(ほっす)曳く白、
へうとして、空にあるなり。
白鷺はまじろがず、
日をあさり、おのれ啼くなり、
幽(かす)かなり、脚(あし)のひとつに
蓮の実を超えて立つなり。
『白き花鳥図』中、第3編の詩。
多田武彦は、全6曲からなる組曲の終曲としてこれを用いている。
・かうかう...漢字で書くならば「皓皓」だろうか。あるいは耿耿?浩浩?行行?
・ありく...あちこち移動する意。動き回る。往来する。
・煙る...ぼうっとかすんで見える。
・払子...長い獣毛を束ね、これに柄を付けた法具。禅僧が煩悩・障碍を払う標識として用いる。
・へうとして...剽?あるいは漂?
・まじろぐ...まばたきする。
・日をあさり...昼間に餌を探しもとめる。
・おのれ...自然と。ひとりでに。
・幽か...物の形・色・音・匂いなどがわずかに認められるさま。さみしいさま。
全体を通して、静けさ、そして落ち着き払った高貴なたたずまいを感じさせる一編。
ほぼ全ての行が10文字(5+5)、もしくは12文字(5+7)で構成されており、言葉のリズム的にも揺るぎない安定感をもつ。
白秋は短歌でも白鷺を詠んだものをいくつか遺している。
例えば、
白鷺はくちばし黝(くろ)しうつぶくとうしろしみみにそよぐ冠毛(かむりげ) (動物園所見)
春はまだ寒き水曲(みわた)を行きありく白鷺の脚のほそくかしこさ
〜いずれも歌集『白南風(しらはえ)』所収
これら二首、実に『白鷺』と響き合っているではないか。
白秋は、こうした白鷺の姿に神々しさを感じ取っていたように思える。
(つづく)