2017年06月07日

白秋の『白き花鳥図』〈6〉

 
『老鶏』
 
さわさわと起(た)つ風の
音響けば、
鶏は羽ばたきぬ。はたはた、ああ、はたはた、
白檮(しらがし)の、葉広檮(はびろがし)の
かがやく陽(ひ)を目ざして。
 
鶏冠(とさか)や、猛猛(たけたけ)し
眼の稜稜(かどかど)、
尾羽、翼(つばさ)、はららぎぬ、はたはた、ああ、はたはた、
岩根の、白羽蟻の
吹雪と舞ふ柱を。
 
力よ、荒魂(あらみたま)
飛び搏(はた)くと、
勢(きほ)ひ蹴るひと空や、はたはた、ああ、はたはた、
光の、陽(ひ)のしじまの
耿(かう)たる幅(はば)乱すと。
 
凄まじ、身は重し、
青(さを)の夏(なつ)を、
朱の古りし鶏よ。はたはた、ああ、はたはた、
すべなし、飛び羽うつと
いくばくも飛ばず落ちぬ。
 
 
・はららぐ(散ぐ)...ばらばらになる。ぼろぼろと崩れ散る。
・荒御魂...荒く猛き神霊。
・勢(きおい)...きおうこと。きそいあうように事がおこる、そのいきおい。意気込み。
・しじま...静まりかえっていること。静寂。
・耿耿(こうこう)...光の明るいさま。きらきらと光るさま。
・乱す...平静な状態をかきまわす。
・すべなし(術無し)...ほどこす方法がなく切ない。
 
 
『白き花鳥図』全18編の最後に置かれた詩。
多田武彦によるこの組曲、原初の形ではこの『老鶏』は含まれていなかったのだが (音楽雑記帳『鮎鷹』の項参照)、その後再構成するにあたって組曲の第5曲として採用された。
詩のもつ荒々しさや力強さを生かし、急速な3拍子=スケルツォの楽想で書かれている。
 
かがやく陽、青の夏、朱の古りし鶏...
ぎらぎらと強烈な光のイメージに溢れたこの詩を一読してさっと脳裏に浮かんだのが、伊藤若冲による一連の花鳥画だ。
 
 
(この詩に限らないが) 白秋はどのような画をその目で、あるいは彼の心の眼で見つめていたのだろうかなどと考えつつ歌集を繰ってゆくうちに...次の二首を見つけた。
 
 
若冲の画を観て、心神相通ずるものあり、乃ち我も亦、
 
この軍鶏(しゃも)の勢(きほ)へる見れば頸毛(くびげ)さへ逆羽(さかば)はららげり風に立つ軍鶏(しゃも)
 
雄(を)の軍鶏(しゃも)は丈(たけ)いさぎよし肩痩せて立ちそびえたり光る眼の稜(かど)
 
〜『白南風』(1934年刊) 所収
 
やはり若冲であったか!
白秋のこれらの短歌と『老鶏』、互いを補完するかのように響き合っている。
 
 
 
来月、若きグリーメンとこの『白き花鳥図』を演奏します。
みなさま、どうぞお運びください。
 
 
§東京農工大学グリークラブ
§第37回演奏会
小金井 宮地楽器ホール 大ホール
(JR中央線・武蔵小金井駅下車すぐ)
入場無料、全席自由
 
 
(完)
 
 
posted by 小澤和也 at 23:13| Comment(0) | 音楽雑記帳
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