2017年09月10日

「蜘蛛の糸」、そして生キノマキ

 
 
「魅惑の室内楽 Vol.4」を聴く。
(5日、東京建物八重洲ホール)
 
ピアニスト・平野裕樹子さんの主宰によるコンサートシリーズも4回目。
この日のプログラムは僕の好きなシューベルト、シューマンそして木下牧子作品ということで大いに期待して出かけたのだった。
 
はじめに木下牧子の歌曲を3曲。
『無駄を削ぎ落とし、厳選されたシンプルな音使い』とプログラムノートにあるように、各々の詩の持っている "大きさ" と音楽のそれとがぴたりと合っている、そんな心地良さを感じることができた。
ソプラノ針生美智子さんの優しい言葉の扱いとしっとりとした声に魅了される。
 
続いてシューマン/アダージョとアレグロ op.70が演奏された。
オリジナルはホルンとピアノのための二重奏曲。
僕は他にチェロ&pf、オーボエ&pfのアンサンブルで聴いたことがあったのだが、今回のクラリネット&pfという組み合わせは初めてである。
人見剛さんのクラリネットは実に表情豊か、平野さんとの呼吸も見事で、シューマン独特の揺蕩うような楽想をたのしんだ。
その一方で、基本的にはヴィヴラートを用いないこの楽器のハンディキャップを感じざるを得ない瞬間があったことも否めない。
 
前半のラストはシューベルト/岩上の羊飼い D965。
まさにこのコンサートのタイトル「魅惑の室内楽」を象徴するようなインティメイトな演奏であった。
ソプラノとクラリネットに寄り添いつつ全体の流れを統べていた平野さんのピアノが印象的。
 
プログラム後半は最も楽しみにしていた木下牧子/音楽物語「蜘蛛の糸」。
器楽の前奏とともにクラスターチャイムを携えてゆっくりと入場する針生さんの姿が見えた瞬間から、聴衆はあっという間に芥川龍之介の世界へ、極楽と地獄との隣り合う異次元の空間へ誘われる。
ソプラノは歌と朗読を兼ねる大活躍。
針生さんの美しい声が天上の静謐な空気を余すところなく表現し、クラリネットとピアノは蓮の花の白や血の海の深紅、蜘蛛の糸の銀色を巧みに描く。
素晴らしい作品…これはぜひまた聴きたい。
 
演奏が終わって気づいた。
客席やや後ろ寄り、僕のすぐ斜め前に木下牧子さんが座っていらしたのだった。
(こんな書き方は気恥かしいのだが) 初めての "生キノマキ" にひとり静かに興奮してしまったことをここに告白しておく。
 
平野さん、素敵な演奏会をありがとうございました。
 
 
posted by 小澤和也 at 00:34| Comment(0) | 日記
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