2019年11月15日

我が懐かしの「月下の一群」<1>

 
「月下の一群」は、フランス近代詩人66名の詩340編が収められた、堀口大學 (1892-1981) による訳詩集 (初版は第一書房より、1925年刊) である。
昭和初期の日本において多くの若い詩人に大きな影響を与えた傑作だ。
 
僕がこの作品のことを知ったのは、詩集を実際に手に取るよりもはるか以前、学生時代に歌ったある合唱曲によってであった。
南弘明作曲「フランスの詩による男声合唱曲集・月下の一群(第1集)」である。
当時まだ二十歳そこそこであった僕には詩の鑑賞というものに対する興味も知識も全くといってよいほどなかったが、それでもこの曲を初めて歌った時に感じた、これらの詩のもつ西欧風の肌触り、さらにそこから美しく置き換えられた日本語の味わいは今でもよく覚えている。
 
この曲集には以下の5編の詩が用いられている。
1. 小曲 (シャヴァネックス)
2. 輪踊り (フォール)
3. 人の言うことを信じるな (ジャム)
4. 海よ (スピール)
5. 秋の歌 (ヴェルレーヌ)
(これらの表記は「月下の一群」楽譜に準拠)
 
僕にとって懐かしいこれらの詩について、30年ぶりに感じたり考えたりしたことを気ままに綴ってみようと思う。
 
 
『小曲』  フィリップ・シャヴァネックス
 
目を開くと
私には景色が見える、
目を閉すと
私にはお前の顔が見える。
 
【白水社版「月下の一群」(1952年刊) を主たる底本とした講談社文芸文庫 (1996年刊) より引用。原文においては『開(ひら)く』および『閉(とざ)す』にのみルビが振られている】
 
 
この詩は「月下の一群」初版に先立ち、「月夜の園 附刊 仏蘭西近代抒情小曲集」(1922年、玄文社刊) という単行本に収められている。
そこでは、第1行『ひらく』および第3行『とざす』がそれぞれひらがなで記されているそうである。
 
「月下の一群」初版においては、本文は白水社版と同じだが、2行目および4行目に句読点が付されていない。
(下の画像参照)
 
 
大學が折にふれて細部のかたちにこだわり続けた様子が見て取れる。
 
 
(詩の内容そのものについてではないのだが) 今回いくつかの版を見比べていてちょっと面白いことに気づいた...大學による作詩者名の表記である。
 
「月夜の園」...フェリックス・シャバネエス
「月下〜」初版...フイリツプ・シヤヴアネエ
「キユピドの箙」...フイリップ・シャヴアネ
白水社版「月下〜」...フィリップ・シャヴァネックス
 
と微妙に揺れているのだ。
(“フェリックス”とはどうしたことだろう...)
スペルは Philippe Chabaneix であるから、“シャバネー”“シャバネクス”あたりが近いのではないかと個人的には思うのだが。
海外の人名のカナ表記が昔から如何に難しいものであったかということなのだろう。
 
 
原題は “Présence”(存在)。
たった4行の短い作品だが、その中に優しい甘さと深い愛がこめられている。
大好きな詩だ。
 
 
 
posted by 小澤和也 at 23:33| Comment(0) | 音楽雑記帳
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。