![]() 『催眠歌』 アンドレ・スピール 海よ、きかせておくれ、お前が轉(ころ)がしてゐた碩(こいし)のことを....、 お前はいつまでも飽きないか? お前が碎いて砂にする岩のことを お前の波のことを、お前の沫(しぶき)のことを お前の泡のことを、お前の匂ひのことを、 お前の露が島に芽生えさせ お前の風がいぢめる松の木のことを。 牛乳のやうなお前の夜明のことを お前の中に生れ、殖えて、さうして搖れてゐる 魚(さかな)のことを、貝のことを、藻のことを、海月(くらげ)のことを、 さうしてお前の中に死んでゆく諸々(もろもろ)のことを....。 お前は何時までも飽きないか? きかせておくれ、お前をひきつける青空のことを お前の水に水鏡したがる星のことを (お前の波は休みなくその影をくづしてゐる) 夜明にお前をのがれ、お前を呼吸し、お前をひきずる太陽のことを、 夕暮、お前は太陽を自分の臥床(ふしど)に引止めて置きたいのだが 太陽はいつも逃げて了ふ。 きかせておくれ、碩(こいし)のことを。 お前はいつまでも飽きないか? 【新潮文庫版「月下の一群」(1955年刊) より引用】 南弘明氏がこの曲集のために選んだ全5編のうち最長の詩。 そして当然ながらその音楽ももっともドラマティックなものとなっている。 『催眠歌』単独での初出時期は不明。 詩の構成は「月下の一群 初版」からさほど変わっていない。 使われている語句の差異 (主なもの) を挙げると 第2行: お前は何時までも飽きぬのか? (第12、20行も同様) 第6行: お前の露が島の上に生えさせる 第8行: お前の牛乳のやうな夜明のことを 第15行: (お前の波は休みなくその影をこはしてゐる) 第17行: 夕暮、お前は太陽をお前の臥床に引止めたいのだが etc. 第8行、それまでの「お前の〜」で始まるリズムパターンを敢えて打ち切って 「牛乳のやうなお前の夜明のことを」 と語順が入れ替えられている点が (些細なことだが) 印象的である。 詩の原題は “Berceuse”(子守歌、他にロッキングチェアの意も)。 (cf. berceur[形容詞]: 静かに揺れる、人をまどろませるような etc.) 大學の訳詩の題名は上記のとおり『催眠歌』。 なんとも味のある名訳である。 一方、作曲家が男声合唱曲集「月下の一群」第4曲に付けたタイトルは『海よ』。 詩の第1行からそのまま持ってきたのだと思うが... なぜ『催眠歌』を用いなかったのだろう? |
2019年12月31日
我が懐かしの「月下の一群」<4>
posted by 小澤和也 at 02:40| Comment(0)
| 音楽雑記帳
この記事へのコメント
コメントを書く