2020年05月23日

フォーレ再入門

 
 
ジェラール・スゼーの歌うフォーレのディスクを久しぶりに聴く。
(写真左、’70年代の録音)
音楽が、詩がぐいぐいと迫ってくる。
魂の揺さぶられようが今までとはケタ違いだ。
これには自分でもただただ驚くばかり。
年齢を重ね、僕の中で “何か” が変わったのだろうか...
 
 
ポピュラーな名作「夢のあとで」「ゆりかご」「月の光」etc.、
いずれも素晴らしかった。
しかしそれ以上に僕の心を強くとらえたのが「幻影 op.113」と「幻想の水平線 op.118」の2つの歌曲集である。
このうえなく繊細かつ澄み切った美しさを湛えた「幻影」、そして「幻想の水平線」で歌われる夢、希望、瞑想そして諦念とフォーレの音楽の “突き抜けた清朗さ” との対比が深い余韻を感じさせる。
 
私の思いは、つつましく、妙なる白鳥、
倦怠の岸辺にそって、夢や、幻影や、
こだまや、霧や、かげや、夜の、
底知れぬ波のうえをすべり進む。
(「幻影」第1曲「水の上の白鳥」より〜詩: ブリモン男爵夫人)
 
私は、その欲望が地上を這いずる者の仲間、
おまえたちを酔わせる風は、私の心を恐怖で満たす、
だがおまえたちの呼声は、夕暮れの奥底で、私を絶望させる、
なぜなら私のなかには、大いなる出発が満たされぬままに残っているから。
(「幻想の水平線」第4曲「船たちよ、われわれはおまえたちを」より〜詩: ド・ミルモン)
 
 
ネット上にはスゼーの’60年代の音源も数多くアップされていた。
気の向くままにあれこれ視聴する。
音質にはいくぶん古さを感じるものの、ここぞという場面でのスゼーの声の張りや表現のゆとりはこちらのほうがいっそう好ましく思えた。
なかでも印象に残ったのが
「優しい歌 op.61」と「5つのヴェニスの歌 op.58」である。
(いずれもヴェルレーヌの詩)
 
繰り返し聴くほどにどんどん引き込まれてゆく。
矢も盾もたまらず、こちらのCDも中古で入手。(写真右)
届いたのは輸入盤に日本語解説書と帯を付属させた昔なつかしいスタイルの盤だった。
(本体にはMade in West Germany (C)1988 と記されている!)
 
「優しい歌」は当時フォーレが心を寄せていた歌手エンマ・バルダックに捧げられており、フォーレにしてはストレートな感情表現をそこここに置いた “愛のうた” だ。
「5つのヴェニスの歌」は連作歌曲集だが、詩はヴェルレーヌの2つの詩集「みやびな宴」「言葉のないロマンス」から採られており、調性感も含め個々のキャラクターが際立っている。
 
 
聴く者の心の襞をそっと愛撫するような、しかし甘さにただ溺れてしまうことの決してないフォーレの音楽。
この数日ですっかり彼の虜になってしまった。
 
posted by 小澤和也 at 11:36| Comment(1) | 日記
この記事へのコメント
小澤先生のお書きになる『文章』は詩人のようで。
『フォーレ』の音楽のように「流麗」に私には感じられます(^ ^)
確かに歳を重ねる事によって「いろんな感覚」は変わってきますよね?

「あの時は判らなかったけれど、今ならかなり判る」というのは「あるある」かも知れません。でも50を越して「気づき」があるって何だか嬉しくもあります。

新国の「かずや騒動?」の時は申し訳ありませんが、ちょっぴり笑ってしまいました。

でもそんな小澤先生の「人間くささ」かなり好きです!

※ハンドルネームの「えーちゃん」はあまりに祖父&父親が気合いの入った長い名前をつけた為、高校くらいまでは同級生からそう呼ばれてました(T . T)
Posted by えーちゃん at 2020年06月13日 11:36
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