1824年5月7日、
ケルントナートーア劇場 (ウィーン) にて
ベートーヴェン作曲
“シラーの頌歌「歓喜に寄せて」による終結合唱を伴う大交響曲”
が初演される。
シラーが「歓喜に寄せて」を書いたのは1785年晩秋のことである (25-26歳)。
その頃の彼はマンハイムでの亡命生活を余儀なくされ、経済的にも行き詰まっていた。
そこに手を差し伸べたのが、以前にシラーへファンレターを送っていたライプツィヒのケルナーとその友人達である。
彼らはシラーの窮状を知るや即座に彼を招き入れ、数年間にわたり生活面・金銭面での援助を惜しまなかった。
こうした温かな友情への感動を『不滅の友愛の記念碑』(内藤克彦氏の著作より)として歌ったのが “An die Freude” である。
1803年の「シラー自選詩集」によれば「歓喜に寄せて」は全8節、96行から構成されている。
各々の節は8行の先唱部分プラス《合唱》と記された4行が続く形をとる。
そしてベートーヴェンが付曲したのは全96行中のうち36行、全体の4割足らず ─ 特に詩の後半部は全く用いられていない ─ なのだ。
(それでもベートーヴェンによるその “4割” の選り抜き方は実に見事だなと個人的には思う)
先日、縁あってシラーの原詩にじっくりと向き合う機会を得た。
以下に拙訳を掲げる。
太字がベートーヴェンによって採用された部分であるが、今回それ以外の60行を改めて知ることができたのは僕にとって大きな喜びであった。
歓喜に寄せて
フリードリヒ・シラー
歓喜よ、神々の美しい閃光よ、
天上の楽園から来た乙女よ!
私たちは炎に酔いしれつつ足を踏み入れる、
聖なる者よ、そなたの聖所へ。
そなたの不思議な力は再び結びつける、
時流が厳しく分け隔てたものを、
すべての人間は兄弟となる、
そなたの柔らかな翼の憩うところで。
《 合 唱 》
抱き合おう、何百万の人々よ!
この口づけを全世界に!
兄弟よ、 星空の上に
愛する父は住みたもうに違いない。
ひとりの友の友になるという、
大きな成功を勝ち取った者、
一人の優しき妻を得た者は、
喜びの声を互いに合わせよう!
そう、この地球上でたった一つの魂でも
自分のものだと呼べる者も (声を合わせよう)!
そしてそれを成し得なかった者はひっそりと
泣きながらこの集いから出てゆくがよい!
《 合 唱 》
この大きな環に住む者は
共感を尊べ!
それは (私たちを) 星々へと導く、
あの未知なるものの鎮座するところへと。
この世に生くるものはすべて
自然の乳房から歓喜を飲み、
善き者、悪しき者、みな
自然がつくったバラの道をたどる。
歓喜は私たちに口づけとぶどうの枝と、
死の試練を受けた一人の友を授ける、
肉欲は虫けらに与えられ、
智天使ケルビムは神の御前に立つ。
《 合 唱 》
ひざまずくか、何百万の人々よ?
創造主を予感するか、世界よ?
星空の上に主を探し求めよ、
星々の彼方に主は住みたもうに違いない。
歓喜は永遠の自然の中の
力強い発条である。
歓喜が、歓喜こそが回す
大いなる世界時計の歯車を。
それは蕾から花々を、
天空から恒星たちを誘い出し、
それは天球を回す、
先見者の遠眼鏡もまだ見ぬ宇宙の中で。
《 合 唱 》
天空の華麗なる地図の中を
星々が楽しげに翔けゆくように、
兄弟よ、自らの道を進め、
勝利へと向かう英雄のように喜びに満ちて。
真理の炎の鏡の中から
歓喜は探究者へ微笑みかける。
徳の険しい丘の道へと
それは耐え忍ぶ者を導く。
信仰の光輝く山々の頂に
歓喜の旗が風にはためくのが見え、
打ち砕かれた棺の裂け目を通して
それが天使の合唱の中に立つ (のが見える)。
《 合 唱 》
勇気をもって耐え忍ぶのだ、何百万の人々よ!
よりよい世界のために耐え忍ぶのだ!
あの星空の上で
大いなる神が報いたもうであろう。
人が神々に返報することはできないが、
神々と等しくあろうとするのは素晴らしいことだ。
悲嘆 (に暮れる者) も貧困 (に喘ぐ者) も手を挙げ、
愉快な者たちとともに楽しもう。
遺恨や復讐は忘れよう、
不倶戴天の敵も赦そう。
涙を彼に強要することのないよう、
悔恨が彼を苛むことのないよう。
《 合 唱 》
罪科の帳簿などは捨ててしまおう!
全世界が和解しよう!
兄弟よ、星空の上で
神が裁くのだ、私たちが裁いたように。
歓喜が杯の中に湧き出る、
黄金の葡萄酒のうちに
残忍な者たちは優しさを飲み、
絶望 (する者たち) は力強い勇気を (飲む)。
兄弟よ、お前たちの席から飛び上がれ、
なみなみと注がれた大杯が巡ってきたときには、
その泡を天に向かって撒き散らそう。
このグラスを善き精霊に!
《 合 唱 》
星々の渦が褒めたたえるもの、
熾天使セラフィムの賛歌が褒めたたえるもの、
このグラスを善き精霊に
星空の上のはるか彼方にある善き精霊に!
重い苦悩にあっては確固たる勇気を、
無実 (の者) の涙するところには救いを、
堅い誓いには永遠を、
友にも敵にも真実を、
王座の前では男子の誇りを ─
兄弟よ、たとえ財産や生命にかかわろうとも ─
功績には栄冠を、
偽りの悪党には没落を。
《 合 唱 》
この神聖なる集いをより密に、
黄金の葡萄酒にかけて誓おう。
この誓約に忠実であることを、
星々の審判者にかけて誓おう!
(訳: 小澤和也)
2024年05月08日
“An die Freude” に寄せて
posted by 小澤和也 at 02:45| Comment(0)
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