
弦楽四重奏曲ハ長調 Op.76-3「皇帝」〜第2楽章
1797年1月、ハイドンは「皇帝讃歌」を作曲する。
当時、オーストリアは戦乱によって危機に瀕していた。
このようなときこそ国民の心の支えとなる歌を…
と考えた彼は、イギリス滞在中に深く感銘を受けたイギリス国歌「神よ、王を護らせたまえ」にならって、この曲を作ったと言われている。
そして翌月、オーストリア皇帝の誕生日に際し国歌として発表された。
このメロディを主題とした変奏曲の形をとっているのが、この四重奏曲の第2楽章である。
はじめに第一ヴァイオリンが「皇帝讃歌」のテーマを奏でる。
続く第1変奏では第二ヴァイオリン、第2変奏ではチェロ、そして第3変奏ではヴィオラが主旋律を受け持つ。
最後にもう一度、第一ヴァイオリンがテーマを奏し、静かに曲を閉じる。
16小節の短く親しみやすいメロディ。
優しく、穏やかなニュアンスで始められるが、曲が進むにつれ次第に表情豊かに、和声もよりドラマティックに(ただしあくまで気品は損なわない)色付いてゆくのだ。
その移り行きが…じわじわと聴く者の心に沁みる。
ハイドンの亡くなる年(1809年)、フランス軍の攻撃がハイドン邸のすぐそばまで近づいた。
『…彼の家の窓と扉とがはげしく揺れた。狼狽し恐怖におののく
召使たちに向かって、彼は威厳に満ちた声で言った。「子供た
ちよ、恐れることはない。ハイドンのいるところでは、おまえ
たちは決して不幸に陥ることはないのだ!」…』
(大宮真琴氏の著作より)
晩年のハイドンはこの「皇帝讃歌」を毎日欠かさず弾いていたそうだ