僕の好きな指揮者のひとり、イシュトヴァン・ケルテス(1929-73)。
彼の新譜が久しぶりにリリースされた。
ハイドン晩年の傑作「ネルソン・ミサ」、
1973年4月、テル-アヴィヴでのライヴ録音である。
(ただしモノーラル…録音状態はそこそこだ)
管弦楽はイスラエルpo、独唱はL.ポップ(sop)、岡村喬生(bas)他。
さっそく聴いてみた。
第1曲:キリエ
冒頭から豊かな情感をもって始まる。
テンポもやや重めか…
と思いスコアをみると、作曲家の指示は "Allegro moderato" 。
改めて納得である。
(ケルテスのAllegroは総じて落ち着いたテンポであることを思い出した)
ダイナミクスレンジも広くとられ、ドラマティックな表現になっている。
ポップのコロラトゥーラが見事。
第2曲:グローリア
前曲から間髪を入れずにグローリアに入るが…かなり不自然だ。
おそらく編集に際して間を詰めてしまったのであろう。
一つの楽曲中での間はきちんと残されているので、これは実に残念。
(この先もずっと同様である)
それはともかく、キリエからの曲想の切り替わりがとても鮮やかである。
中間部 "Qui tollis" では、一転して引きずるようなAdagio。
若き岡村喬生の歌うアリオーソが圧巻だ。
ここでのテンポ設定はケルテスのこだわりか、それともソリストの要望によるものだったのだろうか。
第3曲:クレード
この楽章の出だしは、一般に確固たる足どりを表す速度で奏されるが…
ここでのケルテスのテンポはかなり遅い。
(スコアの指示は "Allegro con spirito"、2/2拍子である)
対する中間部はキリストの生誕〜受難について述べられる部分であるが、悲愴感はあまり感じない。
(ハイドンの曲想自体による所も大きいとは思う)
第4曲:サンクトゥス、特になし。
第5曲:ベネディクトゥス
このミサ曲における「もう一つのクライマックス」と呼んでもよい楽章であろう。
指定はAllegrettoであるが、ケルテスはじっくりと歩を進めてゆく。
実に良いテンポだと思う。
しかし最後にさらなるサプライズがあった。
楽章の結尾(本CDでは5'13"あたりから)、ティンパニと3本のトランペットが三連符を重々しく刻む部分で、さらにテンポを落とすのだ。
ベートーヴェン「ミサ・ソレムニス」のアニュス・デイを先取りしたような、「きな臭さ」をやや強調したような表現である。
第6曲:アニュス・デイ
前曲からの流れを受けて穏やかな "Agnus Dei" 、そして円満な "Dona nobis" と型通りに進み、安堵に溢れたフィナーレへ…
ケルテスの解釈について際立った特徴を挙げるのは難しいが、オーソドックスな中にも要所要所でじっくりと腰を据えて語るような、そんなハイドンである。
そして…
彼のモーツァルトにみられるような「作品への絶対的信頼」とはちょっぴり異なるアプローチに、ついついニヤリとしてしまうのだ。
2012年03月21日
ケルテスの「ネルソン・ミサ」
posted by 小澤和也 at 00:39| Comment(0)
| 日記
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