この数日で立て続けに二編、
心から「いいな」と思える詩に出会った。
いずれもおそらくは有名なもので、単に僕がそれらを知らなかっただけなのだ、とは思うけれど。
老いたきつね 蔵原伸二郎
冬日がてっている
いちめん
すすきの枯野に冬日がてっている
四五日前から
一匹の狐がそこにきてねむっている
狐は枯れすすきと光と風が
自分の存在をかくしてくれるのを知っている
狐は光になる 影になる そして
何万年も前からそこに在ったような
一つの石になるつもりなのだ
おしよせる潮騒のような野分の中で
きつねは ねむる
きつねは ねむりながら
光になり、影になり、石になり雲になる夢をみている
狐はもう食欲がないので
今ではこの夢ばかりみているのだ
夢はしだいにふくらんでしまって
無限大にひろがってしまって
宇宙そのものになった
すなわち
狐はもうどこにも存在しないのだ
死期を悟っているのか、枯野に眠り続ける一匹の狐。
それは、清貧の中に一生を終えつつあった作者の姿だろうか。
「おしよせる潮騒のような野分の中」にあって、詩全体を包むこの静けさは何だろう…
深く深く、読む者の胸に沁みてゆく美しい詩だ。
もう一編については、改めて。