![]() 《我が母国語》 完成: 1889年4月 初演: 1889年5月2日、アントウェルペン、ネーデルラント劇場、ヘンドリク・フォンテーヌ(バス) 出版:Röder社(ライプツィヒ) §詩人グロートと低地ドイツ語 クラウス・グロート(1819–1899)はドイツ北部、ホルシュタイン地方に生まれた詩人です。生涯を通じて低地ドイツ語文学の発展に尽力し、地域の生活や自然・文化などを詩的に表現しました。 グロートは30歳代のはじめ頃、フェーマルン島での療養中に『クヴィックボルン』と題された詩集を編みました。「我が母国語」はその中に収められています。 §ブノワ歌曲の最高傑作 1889年5月、グロートの生誕70周年を記念した祝賀会がアントウェルペンにて催されました。この式典への協力を依頼されたブノワは即座にこれを引き受け、歌曲「我が母国語」を作曲します。 付曲に際してはフランデレンの作家コンスタント・ハンセンによるアルディーチ(中世オランダ語)訳詩が用いられました。歌はもちろんのこと、ハープと弦五部(ヴァイオリンx2、ヴィオラ・チェロおよびコントラバス)による伴奏も実に魅力的です。 フランデレンの作家で詩人のランブレヒト・ランブレヒツ(1865-1932)はこの曲について次のように書いています。 『その深い情感と詩的な内容、優雅にうねる旋律、そして完璧な形式美により、ペーテル・ブノワの歌はフランデレン精神の目覚めをもたらし、フランデレンにおいて古典的な意義を持つに至った。(...) 私たちがこの地で目にした、母国語を称賛する多くの作品の中でも、これに匹敵するものは一つもない。(...)ブノワが『我が母国語』以外の作品を何も作曲していなかったとしても、彼の名前は不滅のものだったであろう。』 §拙訳「我が母国語」 我が母国語、比類なく愛しきもの その甘い響きは深く魂をふるわせる 私の心が鋼や石のようであるときも あなたはその驕りをはらい去ってくれる あなたは私のこわばった首をやさしく垂れさせる 母がその胸に抱くように あなたが私の顔を優しく撫でるとき すべての苦しみはしずまる 私は無邪気な子供のようだ 邪な世界はそこにはない あなたが春風のように私を包みこむと 喜びがふたたび花開く 「さあ」そして老父はなおも言った 私の手を組ませ「祈りなさい」と 「父なる神よ」と私は始める その昔にしたように 私は深く感じ そして理解する 真心がそのように語りかける そして天上の平安が私へと吹き寄せ すべてがふたたび幸福となる 清く公正なる我が母国語よ 古の民のことばの語り部よ ただ口に「父よ」と発すれば それは天使の歌声のように私に響く これほどに私の心を優しく愛撫する歌はない これほどに美しく歌う夜鶯はいない そして涙が頬を伝ってゆく 谷間を流れる小川のように §参考音源 レイチェル=アン・モーガン(メゾソプラノ&ハープ) ユリウス・サッべによる現代オランダ語訳での歌唱です。 |
2026年01月06日
ブノワを知る10曲(7)
2025年11月26日
「水のいのち」考(2)…「水たまり」
2025年10月04日
「水のいのち」考
2025年06月15日
ペーテル・ブノワ 小澤和也編「5つのモテット」についてのノート
「20のモテット集」の出版譜表紙には『同声合唱とオルガンまたはハルモニウム伴奏のための』と記されています。二部合唱あるいは三部合唱、そこに独唱が加わる形の曲もあります。またいくつかは斉唱 (あるいは独唱) のための作品です。若書きということもあってか、それらの中には比較的簡素な楽想、有り体に言ってしまえばやや深みに欠ける曲が含まれる一方で、美しいハーモニーに縁取られた魅力的な旋律をもつ佳品もあります。
最初に私の琴線に触れたのは第20曲 Ave Maria (アヴェ・マリア) でした。シンプルでありながら聴き手をうっとりとさせるたおやかなメロディ、それに寄り添う伴奏の繊細な色彩の明滅が静かな感動を呼び覚まします。そして...私の脳裡にはこのオルガンパートがコーラスのように響いたのでした。
(この曲をア・カペラで演奏できたならば...)
こうして出来上がったのが今回の混声合唱版「アヴェ・マリア」です。伴奏声部の器楽的な音の運びも感じられるよう意を用いました。
次に心惹かれたのが第7曲 Panis angelicus (天使の糧) です。原曲の編成は三部合唱+独唱、オルガンも独立した声部を持っています。かかる多層的・立体的なこの作品のアレンジには時に困難も伴いましたが、同時にペーテル・ブノワの「心」に近づくための深い思索の機会ともなりました。
楽想が実にオルガン的と言える第10曲 Regina coeli (天の元后)、そして今回収録は行いませんでしたが第16曲 Tota pulchra es (御身すべて美し、マリアよ)、および第15曲 Sub tuum (御身の庇護の下に) を加えた全5曲を無伴奏混声合唱のために編み、「ペーテル・ブノワ/5つのモテット」と題して曲集としました。本国ベルギー以外では未だほとんど知られていないペーテル・ブノワの素晴らしい音楽が日本で、そして世界で歌われ愛されるときが来ることを願ってやみません。
アヴェ・マリア Ave Maria
https://youtu.be/WfUMPG55Zw0
天使の糧 Panis angelicus
https://youtu.be/N1vCVVmaJzs
天の元后 Regina coeli
https://youtu.be/6q68YLNrgFQ
合唱: 東京農工大学グリークラブ
指揮: 小澤和也
2025年02月06日
ブノワを知る10曲 (6)
![]() 《フランデレンの芸術的栄光 (ルーベンスカンタータ)》 完成: 1877年6月、アントウェルペン 初演: 1877年8月18日、フルーン広場、ペーテル・ブノワ指揮 出版: ペーテル・ブノワ財団 §音楽スタイルの大転換 1877年はフランデレン地方で活躍したバロック期の画家ルーベンス(1577-1640)の生誕300周年でした。 これを記念してアントウェルペン市がブノワに委嘱し作曲されたのがこの「フランデレンの芸術的栄光」です。 1870年代前半までのブノワは「愛の悲劇」(歌曲集)や反戦オラトリオ「戦争」など、前衛的な和声を多く用いた主観的な作品を書いていましたが、その後表現のスタイルを“一般大衆にも容易に理解できる平明な音楽”へと大きく転換させていました。この「フランデレンの芸術的栄光」もキャッチーで魅惑的な旋律、色彩的な劇的効果といった特徴をもった明快な作品となっています。 §巨大なオーケストラ編成 この曲のもう一つの特徴は大人数の管弦楽を使用していることです。その編成は次のとおりです: ピッコロ2、フルート2、オーボエ2、イングリッシュホルン、E♭クラリネット、クラリネット2、バスクラリネット、ソプラノサックス、テナーサックス、ファゴット2、コントラファゴット ホルン6、トランペット6、トロンボーン6、テューバ2 ティンパニ、打楽器(トライアングル、シンバル、大太鼓、小太鼓 バンダ(アイーダトランペット6) 弦五部 混声四部合唱、児童合唱 オーケストラ本体と離れて置かれた2群のアイーダトランペット、そしてユニゾン(斉唱)を多用した圧倒的なコーラスの響きが印象的です。 §作品について 全体は三部構成になっています。 各部において世界の国や地域が“擬人化されて”合唱によって歌われます。 第1部は“(ベルギーとオランダからなる)姉妹都市”のもとを“ヨーロッパ”“アジア”“アフリカ”などが訪れるという筋立てでフランデレンを称える歌が展開していきます。 (”アントウェルペン“という一都市もこの中に加わっています) 最後は古代ギリシャへの讃歌で締めくくられます。 第2部はその冒頭で“姉妹都市およびアントウェルペン”によって 『なんと長く陰鬱な夜だったか(...)人類は手枷足枷をかけられ(...)』 と重苦しく歌われて始まります。 すると世界の各地域が 『最初の光はどこに射したか?』『自由の歌は何処で初めて響いたか?』『それはフランデレンで!』etc. とこぞってフランデレンを誉め称えます。 結びは児童合唱の澄んだ声が美しい「カリヨンの歌」で賑々しく終わります。 第3部は、第1部の冒頭に現れた祝祭的なファンファーレで始まりますが、すぐに“嫉妬” と“姉妹都市”との間で応酬が繰り広げられます。 『汝らの芸術は、自由は、魂は失われた!』 『踏みにじられ嘲笑された祖国に慈悲を!』 すると“全世界”が支配からの自由を訴えかけるように平和共存のメッセージを叫びます。 『人間は自由であれ、歩き回るところ、住むところすべて、スヘルデの泡立つ流れのように』 フィナーレではふたたび「カリヨンの歌」が感動的に歌われ全曲の幕を閉じます。 §参考音源 ・デ・フォホト指揮、王立フラームス歌劇場管弦楽団他 (1958年ライヴ録音) Eufoda 1158 ・ファラハ指揮、アントウェルペン・フィル他 (1977年ライヴ録音) CBS 73697 (LP) 前者は録音が非常に古めかしくトランペットが派手にコケたりしますが、ライヴ感・祝祭的な気分は満点です。 これに比べると後者はいくぶん穏やかな表現ですが音質的にははるかに聴きやすいと思います。 「カリヨンの歌」は短く素朴ですがとてもキャッチーで心にしみるメロディです...まずはこの部分からご一聴を! デ・フォホト指揮による演奏へのリンクはこちら↓
posted by 小澤和也 at 01:55| Comment(0)
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ブノワを知る10曲 (6)
posted by 小澤和也 at 01:49| Comment(0)
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2024年08月21日ブノワを知る10曲 (5)
posted by 小澤和也 at 17:13| Comment(0)
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2024年06月13日ブノワを知る10曲 (4)
posted by 小澤和也 at 16:38| Comment(0)
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2024年05月01日ブノワを知る10曲 (3)
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2024年02月08日ブノワを知る10曲 (2)
posted by 小澤和也 at 14:45| Comment(0)
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![]() 小澤和也 KazuyaOzawa 1966.8.26生 指揮者 PBIヴォーカルアンサンブル 第2回演奏会 PETER BENOIT REQUIEM 〜レクイエム〜 2026年3月20日(金・祝) 14:00開演 たましんRISURUホール(立川市市民会館) 大ホール プログラム: レクイエム(日本初演) フルートと管弦楽のための交響詩 作品43a(日本初演) アヴェ・マリア 作品1 以上 すべてペーテル・ブノワ作曲 出演: PBIヴォーカルアンサンブル PBI管弦楽団2026 岩下智子(フルート) 小澤和也(指揮) チケット: 全席自由 3000円 (未就学児入場不可) 主催: ペーテル・ブノワ研究会(Peter Benoit Instituut) お問い合わせ: ペーテル・ブノワ研究会事務局 pbi340817@gmail.com Recent comment
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