2019年06月30日

カリンニコフ(2) 『ニンフ』

 
 
僕のささやかなカリンニコフ研究。
年代を追って、まずは彼の管弦楽曲を眺めていきたいと思う。
(第1交響曲まで無事たどり着けますように...)
 
 
§交響的絵画『ニンフ』
 
作曲:1889年
初演:1889年12月16日、モスクワ
演奏時間:約10分
編成:フルートx2、オーボエx2、クラリネットx2、バスーンx2、ホルンx4、トランペットx2、トロンボーンx3、ティンパニ、トライアングル、タムタム、弦五部
 
 
カリンニコフの書いた最初の大管弦楽作品。
1889年の作曲、当時彼は23歳の学生であった。
初演は同年12月16日、モスクワでの「貧困児童慈善事業のための音楽と文学の夕べ」においてヨシフ・アントノヴィチの指揮によって行われるが、演奏会評が新聞等に取り上げられることはなかったとのこと。
再演の機会に恵まれることもなく、その後総譜も失われてしまった。
1954年、(第1バスーンを除き) 残存していたパート譜からスコアが復元される。
失われたバスーンのパートは校訂者V.キセリョフによって補作された。
 
この交響的絵画『ニンフ』はツルゲーネフの同名の散文詩から着想を得ている。
ツルゲーネフは1818年、ロシア中部オリョールの生まれ...カリンニコフはこの同郷の文豪にリスペクトの感情を抱いていたであろうか。
 
 
作品は次のような構成になっている。
(1-29 などの数字は小節番号を、カッコ内の数字は小節数を表す)
 
1) 序奏部 Andante, 4/4(拍子)...1-29 (29)
2) 主部A Allegro scherzando, 3/8...30-205 (126)
3) 主部B Allegro molto, 2/2...206-316 (111)
4) 序奏部回帰 Andante, Tempo I, 4/4...317-328 (12)
5) 主部A回帰 Allegro, 3/8...329-431 (103)
6) コーダ Vivace〜Vivacissimo, 3/8 ...432-476 (45)
 
 
1) 序奏部冒頭のオーケストラ全奏はシベリウス『フィンランディア』にそっくりである。
(ただし作曲はカリンニコフのほうが約10年早い...念のため)
続いて何種類かのリズム・音型からなるモティーフが登場し念入りに展開されていくが、曲調は一貫して暗く神秘的だ。
そして、ここまででは第1交響曲のような息の長い、歌うような旋律はまだ現れない。
 
2) 主部は上記のように2つの部分に分かれている。
主部Aもいくつかの素材・モティーフを丹念に組み上げていくスタイルである。
オーケストラの響きとしてはチャイコフスキーのそれに近いだろう。
第52小節ではじめて「旋律主題」と呼べるようなロ短調の軽快なテーマが登場する。
ところどころに短い総休止を挟みつつしばらく進むと新しいテーマらしきものが聞こえてくるが、先の主題とのコントラストはあまりなく、第2主題として扱うほどではない...このあたりはカリンニコフの若さを感じさせる。
 
3) 主部Aから切れ目なくホ長調、2/2拍子の新しい部分に入る。
まず聞かれる素朴な舞曲風の主題、これはいかにも (ああ、カリンニコフ!) と思えるようなものかもしれない。
途中に現れるファンファーレ風のエピソード部を除けば、主部Bではほぼこの舞曲風主題が扱われている。
そのファンファーレ風の部分で感じたことがひとつ。
ここでカリンニコフは高音域の旋律音型をトランペットに (他の楽器と同音域で重ねずに) 宛がっている...これは第1交響曲でもときおり聞かれたオーケストレーションだ。
独特の個性とまでは言えないまでも、カリンニコフらしい響きがこの若い作品で既に用いられていることにこの先も注目したいと思ったのだった。
 
4) 音楽は途切れることなく、序奏部の気分に戻る。
ただし前述のとおり、この部分は全12小節と極めて短い...“回帰” というよりは “回想” 程度かもしれない。
 
6) そして先ほどの 1)→2) への移行とは異なり、Andanteから次第にテンポを速めつつ主部A回帰へと入る。
ここで聞かれる素材はすべて 2)で使われたものである。
 
7) 短い総休止のあと、ここではじめてタムタムが用いられる。
(しかも弱音で!)
弦の激しいトレモロから全奏での一気のクレッシェンド→総休止...この流れが再度繰り返され、またも総休止。
沈み込むような弦のピツィカートののち、最後の力を振り絞るように『ニンフ』はあっけなく終わる。
 
第1交響曲のようなしなやかさや豊かな流れにはやや欠けるものの、楽器の組み合わせ方は充分魅力的であるし主題労作的な手堅さも好感がもてる。
サウンドの基調はロシア的であるが、民謡的な雰囲気やいわゆる “土臭さ” に頼った作風でないところに若きカリンニコフの非凡さを見ることのできる作品だと感じた。
 
 
次は1891-92年の作品、『管弦楽のための組曲』に触れたいと思う。
posted by 小澤和也 at 02:26| Comment(0) | 音楽雑記帳

2019年06月25日

カリンニコフ再入門

 
 
 
近くカリンニコフの交響曲を数年ぶりに手がけるにあたって、彼の作品について少し調べてみた。
2つの交響曲を含めた管弦楽曲が10曲ちょっと、ロマンス (歌曲) が同じく十数曲、ピアノ小品が8曲ほど、他に合唱曲や重唱曲、オペラのスケッチなど。
およそ35年という短い生涯 (実質的な作曲活動期間は15年ほど) の中で彼が遺した作品に対し、年代を追ってアプローチしてゆくことはそれなりに意味のある試みであろうと考える。
 
さっそくいくつかの管弦楽作品を、スコアを入手して読んでいるが...とても面白い!
カリンニコフは決して「交響曲第1番 “だけの人”」ではないのである。
 
表中、
(Lost) とあるのは失われた作品
pf=ピアノ曲
cho=合唱曲
vo&pf=ロマンス をそれぞれ表す。
また、ロマンスの題名については英訳をそのまま記した。(原題およびテキストは当然ながらロシア語)
 
 
 
§1866年
1月13日、ロシア・オリョール州にてヴァシーリィ・セルゲェヴィチ・カリーンニコフ生まれる
 
§1879年
神学校に通い始める
 
 
§1880年
14歳で神学校合唱団の指導者となる
 
 
§1884年
モスクワ音楽院に入学、
しかし経済的理由により数ヶ月で退学する
 
・悲しみ, pf (Lost)
 
 
§1885年
モスクワ・フィルハーモニー協会の音楽演劇学校に入学、音楽理論とファゴットを学ぶ
 
・天使ケルビムの賛歌第1, 第2 (-86年), cho (Lost)
 
 
§1887年
・On your lovely little shoulder dear, vo&pf
・On the old burial mound, vo&pf
・When life is weighed down with suffering, vo&pf
・小さな合唱曲 (Lost)
・山頂, cho (Lost)
・オペレッタ作品 (Lost)
 
 
§1888年
・スケルツォ へ長調 (-89年), pf
 
 
§1889年
・交響的絵画『ニンフ』, orch
・フーガ ニ短調, orch
・主よ、われらの主よ, 4vo
・クリステ エレイソン, 4vo
 
 
§1890年
・カンタータ『ダマスコの聖ヨアン』(Lost)
 
 
§1891年
・弦楽セレナード
・管弦楽のための組曲 (-92年)
 
 
§1892年
音楽演劇学校を卒業
チャイコフスキー、カーリンニコフをマールイ劇場の指揮者に推薦 (ただし実現せず)
 
・序曲『ブィリーナ』
・悲しい歌 ト短調 (-93年), pf
・16曲の音楽の手紙 (-99年), vo&pf
 
 
§1893年
イタリア劇場の副指揮者に就任
同年秋より体調悪化、クリミア地方へ移り療養生活に入る
 
 
§1894年
・序曲 ニ短調
・交響曲第1番 ト短調 (-95年)
・ロシア風間奏曲 へ短調, pf
・メヌエット ホ長調, pf
・ワルツ イ長調, pf
・ノクターン 嬰へ短調, pf
・エレジー 変ロ短調, pf
・The gentle stars shone down on us, vo&pf
・Bright stars, vo&pf
・There was an old king, vo&pf
・歌劇『王女マーラ (もしくはカスチェイの死)』(スケッチのみ)
 
 
§1895年
・交響曲第2番 イ長調 (-97年)
 
 
§1896年
・管弦楽のための間奏曲第1番 嬰へ短調
 
 
§1897年
・管弦楽のための間奏曲第2番 ト長調
・交響的絵画『杉と棕櫚』(-98年)
 
 
§1899年
・劇音楽『皇帝ボリス』
・歌劇『1812年』(-00年, プロローグのみ)
・A present for 1 January 1900, vo&pf
 
 
§1900年
・Prayer, vo&pf
・Bells, vo&pf
 
 
§1901年
・Do not ask why I smile in thought,vo&pf
・美しい少女が海辺に座っている, cho&orch
 
1月11日、ヤルタにて没 (34歳)
 
 
§作曲年代不詳の作品
・モデラート, pf
・交響曲第1番の主題によるポロネーズ, pf連弾
・I am yours, my darling, vo&pf
・I would like to make my songs, vo&pf
・Come to me, S,A,B&pf
・リリパットの勝利, cho
・弦楽四重奏曲 (Lost)
 
 
【主な参考資料】
・ニューグローヴ世界音楽大事典
・カリンニコフ/管弦楽作品集 (スヴェトラーノフ指揮) CD解説書 (メロディア 74321 49610 2)
posted by 小澤和也 at 16:21| Comment(0) | 音楽雑記帳

2019年06月16日

ゼッフィレッリさんの訃報

 
Addio a Franco #Zeffirelli. 
Il grande regista è morto a Roma. 
Aveva 96 anni.
さようなら、フランコ・ゼッフィレッリ。
偉大なる演出家がローマで死去。
96歳だった。
(イタリア・la Repubblica紙のTwitterより引用)
 
 
巨星堕つ。
 
 
一度だけゼッフィレッリさんを間近で見かけたことがあった。
2003年9月、新国立劇場公演『ヴェルディ/アイーダ』舞台稽古中のことである。
稽古が突然止まり、(どうしたのだろう?) とステージを見やっていると...下手袖からゼッフィレッリさんがゆっくりと現れたのだった。
(実際の稽古は演出補の方が担当されていた)
出演者やスタッフからの熱烈な拍手に笑顔で応えるゼッフィレッリさん。
ほんの数分の出来事であったが、その姿から発せられていた強烈なオーラは今も忘れられない。
 
 
この公演に音楽スタッフとして参加できたことは僕にとって大きな財産である。
マエストロ、ダニエル・オーレンの変幻自在なタクトにつけてペンライトを振ったのも実に有り難い経験だ。
 
 
その際に作ったスタッフジャンパー。
すっかりボロボロだけれど、今も愛用している。
 
 
第1幕前奏曲の最後の音が消える。
入れ替わりに舞台にすっと照明が入り、メンフィスの王宮が眼前に浮かび上がった。
城壁に当たる柔らかな光、まっすぐに伸びる影...
言葉を失った。
真に美しいものを目の当たりにして涙がこみあげてきた数少ない経験。
絢爛にしてなおかつ気品を損なわないゼッフィレッリの素晴らしい演出だった。
 
 
RIP
 
 
posted by 小澤和也 at 00:20| Comment(0) | 日記

2019年05月26日

合唱団あしべ 春の舞台

 
江戸川区 第40回中央地域まつり。
今年も合唱団あしべのみなさんと出演しました。
(26日、東小松川公園)
 
快晴。
暑い...とにかく暑い。
正直に告白すると、屋外イベントは天気が良すぎるのも困りモノ(苦笑)
 
あしべの今年の曲目は
「瀬戸の花嫁」「いつでも夢を」そして「ハナミズキ」。
年初よりじっくりと、大切に歌いこんできた愛唱曲たち。
 
 
 
 
炎天下にもかかわらず、あしべの皆さんは普段どおりの爽やかな歌声を聞かせてくださいました。
「ハナミズキ」は本番がいちばん上手だったかも♪
 
あしべの皆さん、今回もお疲れさまでした。
秋の合唱祭へ向けて、来週からまた楽しく歌っていきましょう。
posted by 小澤和也 at 23:08| Comment(0) | 日記

2019年05月19日

カフェ・ベルニーニと城山幼稚園

 
ある日の仕事帰り。
行きつけの珈琲豆店のマスターから「このお店、よかったですよ」とお話を伺っていた都内某所のカフェを訪れてみた。
 
 
静かで落ち着いた雰囲気のこぢんまりとした店内。
(僕の好きなタイプだ)
さっそく“今週のコーヒー” ボリビアを注文する。
 
 
カップを近づけると...うーん、いい香り。
中深煎り、苦みと酸味のバランスがGood!
ちょっとでも雑味があるとこうはいかないだろう。
焙煎からピッキングまで、さぞ丁寧なお仕事をされているのだろうなと直感。
 
そうなると別の種類のものもいただいてみたくなる。
そんなときに決まってオーダーするのはマンデリンだ。
 
 
このカップのデザインも素敵。
苦みとコクが主体のマンデリンだが、実にすっきりとした後味...純度の高さを感じる。
 
ここにいつまでも腰掛けていろいろなコーヒーを味わいたかったのだけれど、この日はもう一つの用事があったので、これにておいとま。
帰り際、マスターより
『深煎りのコーヒーがお好きですか?』
と声をかけられた。
(どうして分かったのだろう...?)
 
 
店を出てしばし散策。
実はこの界隈、僕の生まれ育った町のすぐ近所なのだ。
しかも通った幼稚園はカフェから歩いて10分足らず。
半世紀近く前のかすかな記憶と現在の景色がどれほど重なり合うものか、ちょっぴり確かめてみたくなったのだ。
地図を頼りに向かってみると...
 
 
この細い路地。
手を引かれて歩いた気がする。
左手奥のマンションもあの頃からあったような...
 
 
幼稚園の入口に到着。
熊野神社...そうだ、熊野神社だ!
鳥居も縁石ももちろん新しいものであろうけれど、この佇まいは当時のままのように思えた。
 
 
Time goes by...
posted by 小澤和也 at 23:26| Comment(0) | 日記