2019年08月07日

カリンニコフ(4) 『弦楽のためのセレナード』

 
§弦楽のためのセレナード
 
作曲:1891年
初演:1893年1月26日、モスクワ
演奏時間:約9分
 
1891年、音楽演劇学校在籍中の作品。
(カリンニコフ25歳)
初演は音楽演劇学校の記念祭において作曲家自身の指揮、学生オーケストラにて初演された。
セレナードとしての特色は、冒頭に奏でられるピツィカートによって箴言のように現れ、叙情的でエレジー風ないくつかの旋律主題 (それらは互いに補完的でほとんど対照をなさない) が幅広く流れてゆく。
(CD解説書より拙訳)
 
 
楽曲の構成をもう少しだけ詳しく記してみる。
(25-61 などの数字は小節番号を、カッコ内の数字は小節数を表す)
 
 
Andantino, ト短調, 3/4拍子
 
1) 序奏部...1-8 (8)
2) 部分A (主要主題部)...9-24 (16) 
※繰り返し有り
3) 部分B (第一副主題部)...25-61 (37)
4) 部分A’ (主要主題部回帰)...62-76 (15)
5) 序奏部回帰...77-84 (8)
6) 部分C (第二副主題部)...85-116 (32)
7) 部分A” (主要主題部回帰)...117-147 (31)
8) コーダ (序奏部回想と結尾)...148-160 (13)
 
全体は上のように8つの部分からなる。
序奏部の楽想を要所に挟んだロンド形式 (A-B-A-C-A-コーダ) と見てよいだろう。
 
 
序奏部は前述の通り、弦のピツィカートによってシンプルに、しかし印象的に始まる。
主要主題は一本の明確な旋律線というよりは、ヴィオラ〜第2ヴァイオリン〜第1ヴァイオリンがフレーズを受け渡しつつ織りなす “音の綾” だ。
これまで聴いてきた『ニンフ』『組曲』のどのメロディよりも甘美な、独特の艶やかさをもった歌である。
(これら2曲との違いは何だろう...)
答えはすぐに分かった。
『ニンフ』や『組曲』では主に自然短音階
(ト短調なら ソ-ラ-シ♭-ド-レ-ミ♭-ファ-ソ) 
を用いてロシアの大地の香りを醸し出していたのだが、この主題はいわゆる旋律短音階
(ソ-ラ-シ♭-ド-レ-ミ-ファ#-ソ/ソ-ファ-ミ♭-レ-ド-シ♭-ラ-ソ)
が使われているのだ。
 
第一副主題は変ロ長調、ほのかな明るさを帯びた旋律がチェロを中心にのびやかに奏でられるが、主要主題の影が消えることはなく、ほどなく自然な流れのうちに最初のテーマが戻ってくる。
続いて現れる第二副主題は変ホ長調で始まるが、調性的にはかなり流動的である。
この部分Cの特徴はところどころに挿入されている変拍子であろう。
これによりあたかも「不意に立ち止まりーーまたおずおずと歩き出す」ような、どことなく淋しく不安げな表情が描かれているようだ。
 
三たび主要主題が 〜今度はト長調で〜 回帰、音楽は新たな展開へ向かうと思わせるがそれも長くは続かず、元のト短調でいま一度繰り返され最後のクライマックスを迎える。
その頂点では序奏部の音型がarco (弓奏) により「心に秘めた叫び」のように奏でられ、やがて遠ざかるように全曲を閉じる。
 
 
国民楽派的な語法が色濃く現れている『ニンフ』『組曲』に比べ、西欧風・ロマン派的な響きの要素をもった佳曲である。
もっと広く知られてよい作品だと思う。
posted by 小澤和也 at 09:27| Comment(0) | 音楽雑記帳

2019年08月03日

農工グリー、公演まであと一週間

 
東京農工大学グリークラブとのプローべ、
この日は当日の会場である宮地楽器ホールにて。
豊かな響きをもった舞台空間である。
 
 
 
まずは全員集合してステージ上での発声練習。
僕の中でのこの日のプローべの目的の60%は「ホールで歌うという感覚の体得」である。
普段の練習場と明らかに異なるアコースティックにはじめはやや戸惑い気味のメンバーも次第に慣れてきた様子だった。
 
学生指揮K君、Sさんの振る2曲を僕はこの日初めて聴いた。
§『秋の瞳』 八木重吉/松下耕
§『ねこに こばん』 まど・みちお/大田桜子
いずれも上級生のみによるステージなので人数は少ない (特に女声は6名!) だが、ホールの響きを上手く捉えていてなかなかのまとまりだった。
 
続いて後半のプログラム。
『湖国うた紀行』(松下耕) は滋賀県のわらべうた・民謡を用いた素朴かつ精巧なコンポジションである。
最大で10のパートに分かれる箇所もあり、これを十数名で歌うというかなりチャレンジングな選曲。
前回の練習でもところどころ苦戦を強いられていたようだったが、これまで少しずつ少しずつ組み上げてきた “部品たち” が繋ぎ合わさる、その一歩手前まで到達した印象だ。
(ここへ来るまでが大変だったのだよ!...)
この日の収穫は大きかった。
 
そして『ぜんぶ ここに』(さくらももこ/相澤直人)。
この数週間での進歩が目覚ましく (特に1年生) 、組曲のうちのいくつかはかなりの仕上がりを見せてくれていた。
ここまで来るとさらに欲が出るというものだ...あとひと段階、ブラッシュアップをかけるぞ。
 
 
ホールのロビーに置かれていたチラシ。
こうして見るとやはり異彩を放つデザインであるなあ...
 
 
東京農工大学グリークラブ
第39回演奏会
2019年8月11日(日) 14:00開演
小金井 宮地楽器ホール 大ホール
 
みなさま、どうぞおはこびください。
posted by 小澤和也 at 22:05| Comment(0) | 日記

2019年07月30日

ああ...大人の声っていいなあ

 
津田ゼンガーフェスト 17th Concert を聴く。
(27日 @浜離宮朝日ホール)
 
8年前にはじめて拝聴して以来、ずっとこの合唱団のファンである。
理由は大きく2つ。
まず、指揮の金川先生とメンバーの皆さんとの “音楽を介しての交流” の美しさ。
耳ではもちろんのこと、視覚的にもそれを感じ取ることができるのだ。
もう一点は小介川淳子さんのピアノの素晴らしさ。
歌にぴったりと寄り添いつつ、同時に (指揮とともに) 歌をリードしてゆく...これは “伴奏” という次元をはるかに凌駕していると思う。
 
今回もおおいに楽しませていただいた。
なかでも『立ち止って』(星野富弘/なかにしあかね)、技術的には “易しい” 部類に入るものと思うが、ゼンガーフェストの皆さんは心のこもった歌声でこの作品の柔らかな魅力を客席へと届けていらした。
(この曲、あしべでも歌ってみたいな...)
聴きながらそんなことを考えていた。
 
もう一曲、B.ガルッピ (1706-85) の『詩篇110』も印象に残る。
合唱の澄んだ響きとヴェネツィアの陽光を思わせる曲想とのマッチングが心地よい。
器楽パートは弦楽四重奏+ピアノという独特の編成...これがピアノでなくオルガンであったらば、とは贅沢な物言いだろうか。
 
品格と洗練、そしてある種のゆとりを感じさせる、(ああ...大人の女性の声っていいなあ) と思えるようなコンサートだった。
ご盛会おめでとうございます。
 
 
 
 
 
posted by 小澤和也 at 13:16| Comment(4) | 日記

2019年07月23日

珈琲道は楽し

 
行きつけの珈琲豆店を訪ねる。
ケニア、マラウィ、ニカラグア、エチオピアetc.
普段にもまして品数豊富、思わず目移りしてしまう...
 
 
「気になるものがあったらおっしゃってくださいね」
マスターのご厚意に甘えて、あれこれ試飲させていただいた。
 
 
さながら理科の実験のよう。
 
爽やかな酸味のハイチ(浅めの浅煎り)、
マスター曰く、今回はほんの少し深めの中煎りにしてみたというルワンダは香りとコクが満点。
そして...トロッとした甘みが強烈なコスタリカ。
マスターが一杯ずつ丁寧に淹れてくださる。
 
 
悩んだ末に今回選んだのがこの2銘柄。
 
 
 
§ルワンダ/ニャルシザ農協・ブフ精製所によるウォッシュト精製
§コスタリカ/ウェストバレー・ジャノボニート地区にあるロマス・アル・リオ精製所によるハニー精製
(グレースとは生産者のお名前だそう)
 
これからも
珈琲道を究めるぞ〜!
 
 
 
posted by 小澤和也 at 23:46| Comment(0) | 日記

2019年07月16日

拙編 ドーデー/アルルの女 (2/2)

 
前回投稿のつづきです。
 
 
ドーデー『アルルの女』(1872)
全3幕5場からなる戯曲
 
【主な登場人物 (再掲)】
§フランセ 
(カストゥレの農家の老主人。フレデリの祖父)
§バルタザール
(フランセの農家に長く仕える羊飼いの老人)
§フレデリ
(農家の若主人。フランセの孫)
§ローズ
(フランセの息子の嫁でフレデリ&リノサンの母親)
§マルク
(ローズの兄。船乗り)
§リノサン
(フレデリの弟。白痴)
§ミティフィオ
(馬の番人。アルルの女の情夫)
§ルノーばあさん
(カストゥレの近くに住む老婆。バルタザールのかつての恋人)
§ヴィヴェット
(ルノーばあさんの孫娘、ローズは彼女の代母)
 
 
【第2幕第2場】カストゥレ農家の台所
 
[♪No.15: 間奏曲]
・第1景
マルクと水夫が早朝の狩に出かける支度をしているところへローズがやってきて、大切な話があるから行かないで頂戴、と告げる。楽しみにしていた狩をお預けにされて不満顔のマルク。
 
・第2景
そこへヴィヴェットがやってくる。6時の船で祖母の待つ村へ帰るとのこと。朝食の準備が間に合わず慌てる彼女にマルクは『そいつは俺が引き受けた』と親切に応対する。船の座席を取るためにヴィヴェットは急ぎ出てゆく。
 
・第3景
マルクの独白。『陽気で誰にでも優しいあの娘が行ってしまうなんてほんとに残念だ...ベル・アルセーヌ号(マルク所有の船)の甲板を、ああいう可愛い、小鳥みたいな娘っ子が飛びあるくの、悪かあない!』
 
・第4景
バルタザールがやってきて、長靴を履いたまま懸命に火を起こしているマルクをからかい、マルクも罵り返すが、そこではたと気づく。『そうか!お前も招ばれたんだね?...今朝、家のものの寄合いがあるらしいんだよ...』
 
・第5景
フランセとローズも加わり家族会議が始まる。ローズはフランセに、このままではフレデリが傷心の苦しみのうちに死んでしまう、アルルの女との結婚を許してやりたいと訴える。家の名誉を重んじるフランセは大反対。バルタザールも『あばずれをこの家に入れるなんて!』怒りのあまり暇乞いをするバルタザール、それを止めようとするフランセ、出たければ出て行けばいいとローズ。バルタザールは続ける。『この家には長いこと一家を導く主人がいない』
 
・第6景
フレデリが台所へ下りてくる。ローズは息子に『お前、死んじゃいけない、アルルの女がどんなひどい女でもいいから嫁にお貰い...』と告げる。フレデリはその言葉に深く感動する。『許してくれるんですね、お母さん...』しかしフランセはじめ一同の顔色を見てさらに言葉を継ぐ。『いいえ、いけません...私はあの女を貰いません...うちの名を名乗らせる女はそれにふさわしい女だけです...』
 
・第7景
折しもそこへ、ヴィヴェットが船着場から戻ってくる。フレデリは彼女を引き寄せ『お祖父さん、どうです?この子なら、うちの娘と呼んでも恥ずかしくはないと思いますが...ヴィヴェット、私の心の悩みを癒す女になってくれないか?』嬉しさのあまり言葉を失うフランセとローズ。ローズの胸にすがるヴィヴェット。バルタザールは啜り泣きながら『よく言ってくれた、神様がきっと祝福してくださるよ!』
[♪No.16: フィナーレ(フレデリとヴィヴェットの愛のモティーフ)]
 
 
[♪No.17: 間奏曲(メヌエット)]
【第3幕第1場】カストゥレの農家の前庭
 
[♪No.18: 間奏曲(カリヨン)]
・第1景
聖エロワの祭りの日。フレデリとヴィヴェットの婚礼を控え、花々で飾られた前庭。忙しく立ち回る召使達とそこへやってきたバルタザールが言葉を交わしている。『羊に囲まれて幸せに一生を終えたい...これがわしの星回りさ』とバルタザール。
 
・第2景
マルクが登場。これからルノーばあさんがここへやってくると聞き、彼女とは昔いい仲だったのだろう?とバルタザールに冗談半分で水を向けるが、バルタザールは激怒する。『その話だけは禁物だ!ちょっとでも言ってみろ、承知しないからな!』
 
・第3景
[♪No.19: メロドラマ〜ルノーばあさんのモティーフ]
フレデリとヴィヴェット、フランセ、ローズそしてルノーばあさんらが盛装して入ってくる。久々に訪れたカストゥレの農家のあちらこちらを懐かしく眺めるルノーばあさん、そしてバルタザールとの久々の再会。長い抱擁...二人は思い出を語り合う。
[♪No.19: メロドラマ〜バルタザールとルノーばあさんの愛のモティーフ]
 
・第4景
ヴィヴェットはフレデリが今でもアルルの女のことを忘れていないのではと密かに気にかけていた。それが例の手紙のせいだと知ったフレデリは彼女に空っぽの上衣のポケットを見せる。『手紙はバルタザールが今朝返しに行ったよ』『嬉しい!』フレデリはヴィヴェットを抱きしめる。
[♪No.20: メロドラマ(フレデリとヴィヴェットの愛のモティーフ)]
 
・第5景
そのときミティフィオがバルタザールのところへやってくる。彼は今夜アルルの女をさらって逃避行に出るつもりだとバルタザールに告げる。そのやり取りを物陰から目にしたフレデリは逆上、槌を手にミティフィオに襲いかかる。フレデリに飛びつくバルタザール。『放せ、まずあいつだ。それからアルルの女だ』ローズが二人の間に割って入る...そこへ松明の灯り、聖エロワ!聖エロワ!と叫びながら庭へと入ってくるファランドールの一隊...歌と太鼓、そして踊り。
[♪No.21: ファランドール]
 
 
【第3幕第2場】養蚕室
 
[♪No22: 間奏曲]
・第1景
中庭では婚約の祝宴が続いている。
[♪No.23: 合唱(三人の王の行列、ファランドール)]
中に納屋や養蚕室、子供部屋のある高い塔の建物の一室にひとり佇むローズ。彼女だけはフレデリの異常に気づいていた。『今夜も寝ないで見張らなくちゃ...』
 
・第2景
そこへフレデリが現れる。ローズは息子の本心を聞き出そうとするが、フレデリは話をはぐらかしてしまう。『何でもないんだよ...俺はただ忘れようとしてるんだ』彼は寝室へと戻ってゆく。
 
・第3景
ローズの独白。『かわいそうに...あの恐ろしい恋が、まだあの子を離さないのだ...女は行ってしまった。それであの子は死のうとしているのだ...』『子供ってものはなんて恩知らずなんだろう!...ああ!母親って惨めなもの...何もかもくれてやって、何も返しては貰わないのだ...』
[♪No.24: 合唱(三人の王の行列)]
 
・第4景
そのときリノサンが寝室から出てきて、今夜は何もなさそうだよとローズに伝える。
[♪No.25: メロドラマ(白痴のモティーフ)]
部屋でのフレデリの様子などを語るリノサン。彼はもうイノサンではなかった。すっかり智慧づいた彼の顔を驚きのあまりじっと見つめるローズ。『お母さん、あたいの名はジャネだよ...この家にはもうイノサンはいないよ』
 
・第5景
ふたたびローズひとり。『この家にはもうイノサンはいない、って?もしそのために不幸が起こったら...いや、神様は子供を一人返してくださって、別の子供を取り上げるなんてことはなさらない...』ローズは寝室へ入ってゆく。
[♪No.26: メロドラマ(ローズのモティーフ、フレデリの苦悩のモティーフ)]
 
・第6景
午前3時。『夜が明ける...山羊は一晩じゅう闘った。そして暁け方に...』半狂乱のフレデリが現れる。『あの男に抱かれている女の姿が見える...ああ!いまいましい幻!』そう呟くと納屋へ向かう階段を上がって行く。『フレデリ!どこへ行くの?』『あれが聞こえない?あいつがあの女をさらってゆく...待ってくれ!』『開けておくれ、フレデリ!...お前と一緒に死なせておくれ!』懸命に戸を叩くも開かない。ローズは狂ったように階下へ走り窓を開け、恐ろしい叫び声をあげて倒れる。
 
・第7景
リノサンがローズのそばに跪く。『お母さん!お母さん!』駆けつけて庭を見たバルタザール『ああ!...』やってきたマルクに『あれをごらん!恋で死ぬ男もいる!...』
[♪No.27: フィナーレ(フレデリの苦悩のモティーフ)]
 
ー 幕 ー
 
 
 
 
 
 
 
posted by 小澤和也 at 08:14| Comment(0) | 日記