2017年01月19日

恋の鳥

 
 
 
新潮文庫の北原白秋詩集を読んでいて、『恋の鳥』という詩を見つけた。
 
  捕らへて見ればその手から、
  小鳥は空へ飛んで行く、  etc.
 
ん?...これは!
カルメンの歌う『ハバネラ』そのものではないか!
調べるとすぐに分かった。
大正8 (1919) 年1月、芸術座が上演した『カルメン』の劇中歌とのこと。
作曲は中山晋平、歌ったのは芸術座の看板女優・松井須磨子である。
神西清氏の巻末解説によれば、「歌劇『カルメン』の英訳本から意訳したものだそう」だ。
七五調の、リズミカルで洒脱な詩になっている。
 
その他、この本には載っていないが『煙草のめのめ』『酒場の唄』といった劇中歌も書かれているらしい。
オペラの中で女工達が歌う所謂『けむりの歌』、リーリャスパスティアの薄暗い酒場の光景が浮かんでくる。
どんな内容なのだろう...?
 
 
恋の鳥
ー『カルメン』の唄よりー
(カルメンのうたふ小曲)
 
捕らへて見ればその手から、
小鳥は空へ飛んで行く、
泣いても泣いても泣ききれぬ、
可愛い、可愛い恋の鳥。
 
たづねさがせばよう見えず、
気にもかけねばすぐ見えて、
夜も日も知らず、気儘鳥、
来たり、往んだり、風の鳥。
 
捕らよとすれば飛んで行き、
逃げよとすれば飛びすがり、
好いた惚れたと追つかける、
翼火の鳥、恋の鳥。
 
若しも、翼を擦りよせて、
離しやせぬとなつたなら、
それこそ、あぶない魔法鳥、
恋ひしおそろし、恋の鳥。
 
(詩集より引用させていただきました)
posted by 小澤和也 at 12:35| Comment(0) | 日記

2017年01月08日

雌伏の日々のモーツァルト ふたたび

 
いま手掛けているハ長調交響曲K.338 (旧全集:34番) について感じたことを記しておこうと思い、「雌伏の日々のモーツァルト」という見出しを考えついたのだが...
なんと三年前 (2014/4/18) に同じタイトルでブログを書いていた。
僕はよほどこの時期 (1779-80年) の作品が好きなようである(苦笑)。
 
この交響曲、スコアの第1ページには
「1780年8月29日、ザルツブルク」とある。
おそらくは完成の日付であろう。
彼の雇い主であるコロレド大司教の意向で交響曲やミサ曲を「短く」作曲しなければならなかったこの頃のモーツァルト。
遺された最終形としてはメヌエットを欠く3楽章構成であり、ソナタ形式の第1楽章呈示部には通常あるはずの繰り返しの指示がない。
 
このような状況下においても、モーツァルトの音楽は美しく、決して明るさを失わない。
オーボエ、ファゴット、ホルンに加えてトランペットとティンパニを用いた第1楽章は壮麗な行進曲風の調子で始まり、終始跳びはねるような曲想に溢れている。
同じ楽器編成の第3楽章はこれまた速いテンポの6/8拍子、畳み掛けるような無窮動のフィナーレである。
 
これらと対照的なのが第2楽章アンダンテ・ディ・モルト (後に作曲者自身の手で "アレグレットに近く" と追記された) だ。
弦五部+ファゴットのみで奏でられる極めてintimateな音楽。
さらにこの楽章を特徴付けているのが、二分割されたヴィオラである。
これによってTuttiの響きが、えも言われぬ陰翳を帯びてくる。
 
 
ここからすぐに連想されるのが、三年前の拙ブログでも触れた協奏交響曲変ホ長調 K.364の第2楽章だ。
この時期の彼の心中を表す象徴的な響きであったのだろうか。
 
 
 
 
posted by 小澤和也 at 23:59| Comment(0) | 日記

2017年01月01日

新年のご挨拶

 
 
新年明けましておめでとうございます。
 
2017年がみなさまにとって
素晴らしい一年となりますように。
 
いま一度原点に立ち返り、力を蓄えつつ音楽と真摯に向き合う一年とする所存です。
 
本年も「音楽ノート」をよろしくお願いいたします。
 
2017年 元日
小澤和也
 
 
 
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posted by 小澤和也 at 19:41| Comment(0) | 日記

2016年12月26日

ブロムシュテットさんの『第九』

 
 
N響創立90周年記念
ベートーヴェン「第9」演奏会 を聴く。
(23日、NHKホール)
 
この機会は逃したくなかった。
チケット発売初日に席を押さえ、この日が来るのをひたすら待っていた。
 
 
 
早足で颯爽と登場するマエストロ。
昨年のN響定期公演での第1、第2交響曲、そしてエロイカを聴いて想像していたとおり、基本テンポを速めにとったストイックなベートーヴェン演奏である。
譜面台の上には閉じられたままのベーレンライター版のスコア。
(ブロムシュテットさんがこれを開くことはない)
 
第1楽章は推進するエネルギーを注入し続けるマエストロの指揮と、確実に歩を進めようとするオーケストラとの間で息がピタリと合った(!)、奇跡的なまでに絶妙なテンポをもって始まり、その求心力は終始損なわれることがない。
この第1楽章にこれほどまでに「(楽曲構成的な) 隙の無さ」を感じたのは不覚にも初めてであった。
 
続く第2楽章。
対向配置の弦楽セクションが織りなす冒頭のフガートは音響的にはもちろん、視覚的にも愉しい。
そして、通常省略されることの多いスケルツォ主部後半のリピート (159-399小節) をブロムシュテットさんは楽譜どおりに実行する。
楽曲のフォルムはやはりこのほうが断然美しいと、聴きながら改めて確信した。
 
第3楽章の速度指示は実に演奏家泣かせだ (と僕は思っている)。
主部は "Adagio molto e cantabile" なのに (敢えて「なのに」と書かせていただく) 四分音符=60、副次部は "Andante moderato" で四分音符=63、なのだ。
だから、往年の名指揮者たちはしばしば、このアダージョを非常にゆっくりと演奏する。
しかしブロムシュテットさんはここでもスコアに忠実であった。
曲の冒頭、一瞬アンサンブルが乱れる。
変な言い方なのだが...とても解る気がした。
オーケストラはすぐに立て直し、それ以降はこのうえなく美しい、まさに極楽境の如き音楽を奏でてゆく。
(もっとずっと聴いていたかった、というのが本音である)
 
そしていよいよ第4楽章へ。
東京オペラシンガーズによる合唱が何といっても素晴らしかった...特にアルトの響き!
冒頭の決然たるレチタティーヴォ、同じく低弦に始まる「歓喜の主題」の気高さ、超速のマーチ (テノール独唱が弱かったのが残念) とそれに続くオーケストラのポリフォニーのせめぎ合いetc. と素晴らしい瞬間の連続であったが、なかでも僕が思わずハッと息を飲んだのが第627小節〜の楽節である。
(コーラスが "Ihr stürzt nieder, Millionen?" と歌うその直前)
ヴァイオリンとコントラバスが沈黙し、ヴィオラとチェロのみが木管を伴って神秘的なコラールを奏するこの部分、対向配置では両弦楽器と木管がステージ中央に集まり、精妙に融け合った響きをつくり出すのだ!
 
音楽を「体験」する。
コンサートへ出かけてこのような気分になったのは久々だ。
ブロムシュテットさんの『第九』...忘れられぬ、否、忘れたくない演奏会であった。
僕の目指す音楽に最も近い (もちろんそれは遥か彼方にあるのだが) ものが、あの演奏の中にはあったのだ。
 
 
 
 
 
 
 
posted by 小澤和也 at 08:46| Comment(0) | 日記

2016年12月19日

「エロイカ」を振りながら

 
 
湘南アマデウス合奏団のプローべへ。
(18日、藤沢市内)
来春の演奏会へ向けての本格的な練習がこの日からスタート。
この半年は「エロイカ」交響曲を中心に何回かの合奏をご一緒する。
 
第1楽章はソナタ形式。
ロマン的情感がいまにもあふれてこぼれ落ちそうな、その一歩手前ギリギリで (それでもしっかりと) 均衡を保っている、エネルギーに満ち満ちた音楽だ。
気分に溺れてしまうことなく造形美の実現を目指す...決して簡単ではないけれど、なんとやり甲斐のある表現行為だろう。
 
悲哀を帯びた、それでいて高貴な佇まいを損なうことなく綴られる第2楽章「葬送行進曲」、3本のホルンが大活躍する野趣に富んだ第3楽章スケルツォを経て、音楽はフィナーレへと一気に流れ込む。
 
その終楽章の "器" にベートーヴェンは、(ソナタでもロンドでもなく) 変奏曲を選んだ。
旋律主題はバレエ音楽『プロメテウスの創造物』で用いられたもの。
 
 
楽章中盤に入ると、音楽はにわかに熱を帯びてくる。
フガート部を経てクライマックスへ。
そしてPoco andanteの大団円へと到達する部分を指揮していて、僕はこのうえない幸福感を覚えたのだった...創造主の存在を確信するかの如くに。
 
『expression という言葉は元来、物を圧し潰して中身を出すという意味の言葉だ。古典派の時代は形式の時代であるのに対し、浪漫派の時代は表現の時代である。圧し潰して出す中身というものを意識しなかった時代から、自明な客観的形式を破って、動揺する主観を圧し出そうという時代に移る。形式の統制の下にあった主観が動き出し、何も彼も自分の力で創り出さねばならぬという、非常に難しい時代に這入るのであります。ベエトオヴェンは、こういう時代の転回点に立った天才であった。』
(小林秀雄「表現について」より自由に引用)
 
ベートーヴェンの音楽は、やはり僕にとってのライフワークだ。
 
posted by 小澤和也 at 09:02| Comment(0) | 日記